VR、AR、MRなどのXR技術を活用し、プロダクト開発を手がけるSynamon(シナモン)。VR空間での最適なユーザー体験を創るためのベースシステム「NEUTRANS」を自社開発し、今年3月にはビジネス向けVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」正式版をリリースした。同社のCDOである西口さんに、Synamonが描くVRの未来についてや経営とデザインの関係についてお話を伺った。
日常的に使えるVRを目指し、BtoB向けに
- はじめに、貴社のサービスについて教えていただけますか?
弊社では、「NEUTRANS BIZ」と「NEUTRANS SOLUTION」という2つのサービスを提供しています。
「NEUTRANS BIZ」は、VR技術の活用によってリアルを超える対話を生み出すビジネス向けのVRコラボレーションサービスです。VR空間を複数人と共有し、リアルタイムで対話や資料共有などができます。もう1つの、「NEUTRANS SOLUTION」では、企業様のご要望に合わせてVRの空間を創っています。企画から開発・納品までワンストップで対応していて、理想的なVR空間を創ることが可能です。
- ビジネス向けのサービスに至ったきっかけは?
VRを普及させることが必要だと思ったからです。まずは「日常的に使える」ということにフォーカスを当てて開発を始めました。
というのも、創業当初、対戦型のVRゲームを開発したのですが、VR自体持っている人が少なく、ゲームをしてくれるユーザーが殆ど居なかったんです。そこで初めて、VRを普及させるところから始める必要があることに気づきました。
バーチャルライブのアプリや、Vtuber向けサービスなど様々な可能性がありましたが、普及に向けて「日常的に使える」ようなものでなくてはならないと考えました。そうして、辿り着いたのが「ビジネス用途で使えるVR」でした。
-なるほど。そのような経緯でビジネス向けのサービスに繋がったんですね。実際には、どういったニーズがあったのでしょうか?
遠隔でのテレビ会議にやりづらさを感じていたり、なかなか会議室がとれないといった状況があって利用していただくことが多いです。首や手の動きがVR空間上のアバターと連動しているので、「ビデオ会議をするよりも、動きが伝わることも良い」というような声もいただいています。
また、アバターを通すことで初対面より緊張しないことや、VR空間という非日常な新しい体験が創造性を刺激するので、ブレストやディスカッションの場など自由な発想をする会議にも向いています。
「アイデアをすぐ形に」を繰り返す
-「NEUTRANS BIZ」では、VR上での動画の視聴を始め、文字や絵を描けたり様々な機能があるようですが、どのように検討されていたんですか?
「あらゆる機能を作って試す」ということを繰り返していました。
社内でブレスト的に「一緒にyoutube見れたら嬉しいね」とか「話しながらものが描けたら良いね」と、何があったら楽しくなるかというアイデアを出し合って。中にはデジタル上で創ったフィギュアを展示する、というアイデアもありました。そうして増やした機能群から、ビジネスに必要なものに絞って現在の形に至ります。
- アイデアをすぐ形にするスピーディな開発をずっと続けてこられたんですね。
そうですね。代表の武樋(たけひ)と僕はビジネス側と開発側で分かれているのですが、最初の頃から毎日「どういうものにしようか」と2人で話しては、試しに作ってみるということをずっと繰り返していました。今もそうですが、ものづくりのクオリティを上げることを、上流の段階でできることは非常にやりやすいですし、だからこそ大事にできると思っています。
-上流からものづくりができるという点で、経営者とデザイナー(開発者)の関係のバランスが良いように感じます。社内全体でも、クリエイティブな思考を大事にされているのでしょうか?
クリエイターファーストみたいなところはありますね。どうやったらいいもの作れるかは常に考えていますし、メンバーにも能動的であってほしいと思っています。考える方が大事だったらちゃんと優先するとか。日々のタスクに追われて考える時間がないということがないように、会社全体で仕組みづくりをしていきたいと思っています。
最近では、「OKR(Objectives and Key Results)」という組織・個人の方向性とタスクを明確にする目標管理方法を導入しています。これが、目標の決定の仕方や、浸透させ方も難しくて。正直、1度目は失敗しました。でも、その失敗も悪くないと思っていて、「次どうやればうまくいくか」と考えていくという文化を創るために役立てばと思っています。
ユーザーの使いやすさを考え抜いたデザイン
- UI/UXに関してこだわりはありますか?
はい、一番こだわっているところだと思います。やはり、VRに慣れてほしい、もっと使ってほしいという気持ちがあるので、「いかに簡単に使えるか」と「動きの気持ちよさ」は重要視しました。
とくに企業の方はVRを使ったことがない人が多いため、操作においても当たり前のことが当たり前にできるようにしたいと思いました。例えば、コントローラーに慣れていない人にも 分かりやすいように、使うボタンを少なくしたり、シンプルな操作で動かせるようにしています。
あと、VRって変な作り方すると酔ってしまうんです。僕自身、VR酔いが激しいタイプなので「絶対酔わないVRにする!」と思っていました(笑)。やはり最初のVR体験で酔ってしまうとユーザーの方が離れてしまいますし、VR上での物の見え方、持った感覚なども、実際と同じように感じることができるよう何度も検証して、1mm単位で現実に近づけるようにしています。
- VR上でもリアルさが大事になってくるんですね。西口さんは、どのようなことを実現したいと思ってデザインされていたのでしょうか?
完全で、リアルな、物理的な世界を創りたいと思っていました。VRって何でもできてしまうからこそ、まず違和感なく現実だと思える世界であるべきではないか、それを実現した上で特殊な能力を追加してあげる方が、ユーザーにとっては使いやすいんではないか、という思いがありました。
UIに関しても、SF映画みたいなかっこいいデザインももちろんできるんですが、実際にそうしてしまうと使い方が分からなくなってしまう。そうではなく、スマホやタブレットで使われているような既視感のあるUIにした方が、見た瞬間から使えて便利なんです。
部屋のモデルも、宇宙などにしてしまうと何のために使っているのか分からなくなってしまうので、あえて会議室にしています。
- なるほど。宇宙で会議することは憧れてしまいますが、実際にビジネスシーンで利用するユーザーの気持ちに寄り添った結果、リアルさを追及されたんですね。
誰もがVRの世界を創ることができる未来
- 西口さん自身が、VRに携わることになったきっかけは?
もともとゲーム会社でCGやプログラミングなどに携わっていて、ちょうどそれがVRに必要な技術だったということはあります。でも、何よりも、VR上だと作ったものが眼の前に同じ大きさで見ることができる。人間だったらそのまま立っている。その世界をそのまま見ることができたことが、ものすごく嬉しくて、衝撃的でした。
- この先、VRの未来はどうなっていくとお考えですか?
VR、AR、XRが世の中に普及し、スマホみたいにあって当たり前な存在になっていくのではないでしょうか。世の中では、VRの次にARの波が来て、メガネ型デバイスが普及するといった話もありますが、僕個人の意見としては、VRの次にARが来て、またVRが来ると思っています。
ARは現実の中で便利なツールですが、VRは世界そのものを創るツールです。もっと開発が進めばVRの中で生活できる日が来るかもしれません。普段の余暇をVRの中で過ごすとか、仕事でもVRが手放せないようになってくるのではないかなと。そういう未来を見ています。
- 「VRコラボレーション技術を軸に、VRが無い時代に戻れない世界へ」というのが貴社のミッションでしたね。では、「Synamonの未来」に対してはどのようにお考えですか?
ミッションにもあるように「VRだけでなくAR、XRという領域が、どんどん日常的に使われるようにしたい」という思いは、弊社のメンバー全員ズレがないところだと思っています。
また、個人的な思いでもあるのですが、「NEUTRANS」をBtoBで普及して会社としても成長させた後に、BtoCの一般ツールにまで普及させたいです。「NEUTRANS BIZ」のようなVRの世界を誰でも簡単に創れるようにしてみたいと思っています。弊社の今のフェーズとしては、「NEUTRANS BIZ」を普及させるというところがまず先なのですが、もっと日常的に使ってもらうための機能を入れていきたいです。そして、さらにその先の話にはなりますが、いつかVRの世界を誰でも創れるプラットフォームみたいなものを提供できればと思っています。
- ありがとうございました。
「VRが日常的になる世界」を目指し、着実に段階を踏み、世界を変えようとしているSynamon。常にユーザーに寄り添って世界をデザインする力がある同社であれば、今回のインタビューでお聴きしたような話を近い未来現実にしてくれるだろう。
ちなみに西口さん自身の今後の展望を聞いてみたところ、「誰もがVR空間を創れるようになったら、自分の作品として空間的世界を創りたい」と教えてくれた。そんな風に様々な人が創る世界になったらと想像するととても楽しみだ。Synamonが創るVRの中の「リアル」を追求したデザイン、そして私達の「リアル」を変えるような未来のデザインに今後も注目したい。
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