【スペシャルインタビュー:後編】 クリエイティブな時代に求められる ワーク・ライフ・インテグレーションな働き方と組織作り

※ 本稿は、「 × DESIGN Interview 」の特別編として、btraxの「日本向けのデザイン経営支援サービスのメソッド」と「ワーク・ライフ・インテグレーションを重視した働き方と組織デザイン」の前後編二回に分けて記事をお届けしています。後編では、btraxの働き方、組織デザイン、価値観についてお伝えします。


前編はこちら「デザイン経営の支援サービスを提供するbtraxに聞いた、デザイン思考を浸透させるメソッド



経営はエクスペリエンスデザインに近い



ー 「デザイン」に対する考え方として、前編では、アメリカと日本で概念や価値観が異なることを伺いましたが、「労働観」についても違いはあるのでしょうか?


そうですね。サンフランシスコでの働き方で言うと、違いはあると思います。

例えば、企業よりも従業員のほうが立場が偉かったり(笑)。


ー ええ!?


その背景としてこの町の経済発展があるかと思っています。

私がサンフランシスコに来たのは20年前なのですが、この20年でもの凄く街が発展しました。20年前のサンフランシスコには、グローバルなスタートアップ企業のオフィスはあまりありませんでした。もちろん、Airbnb、Uberなどのスタートアップ企業もまだ存在していません。


急激な経済発展と共に企業が増え、今では、もともとシリコンバレーにオフィスがあった「google」「apple」「facebook」「LinkedIn」「Salesforce」も、今では全てサンフランシスコにもオフィスがあります。まぁ、「LinkedIn」「Salesforce」以外の本社はシリコンバレーの企業もありますが。


ー なぜ企業はどんどんサンフランシスコに集まってくるのでしょうか?


従業員の獲得の為です。

シリコンバレーは街から遠く利便性も悪いので、最近の若者はサンフランシスコ市内に住みたがります。なので従業員を通わせるのではなく、従業員が働きたい場所にオフィスを建てるんです。というのも、むしろそうでもしないと人材の獲得や維持がしにくい。他にも、労働環境を良くするのはもちろん、カルチャーや福利厚生、給与、いわゆる「お金で買えない価値」も提供する事がこの辺りの企業のスタンダードになっています。

その為、労働者からすると会社が働きやすい事が当然になってくるし、会社も従業員のために労働環境を整えることを重視します。


経営者は大変です。正直この街で経営するのは、死ぬほど大変です。難易度MAX。それこそ、エクスペリエンスデザインに近いと思っています。


ー 従業員も、クライアントも、ユーザーも、、となると経営は、すべての人の幸せを考える究極のデザインですね。



仕事と私生活を連動させる
ワーク・ライフ・インテグレーションな働き方



ー 先程のお話の中で「労働環境を整えることを重視している」と伺いましたが、具体的にはどういった事なのでしょうか?


「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方があると思っています。

スマホやクラウドプラットフォームがある現代において、仕事をしている時間とそうでない時間を分ける「ワーク・ライフ・バランス」という考え方は、意外と非効率的ですし、難しいんです。


30秒で返せるメッセージってすごく多いので、家に居ながらサクッと仕事ができた方が良い。逆に言うと、会社が家の延長でも良いと思うんです。オフィスに居る時間を、仕事をしている時間と考えなくても良いし、家に居るから仕事をしてはいけない、と考えなくても良い。そんな風に、仕事と私生活を無理なく連動させるような働き方が、「ワーク・ライフ・インテグレーション」です。


サンフランシスコ周辺では結構当たり前になってきている勤労習慣なのですが、btraxでも積極的に取り入れています。例えば、弊社は基本10時までに出社なのですが、今朝もスタッフからSlackで「カフェで仕事をしているので、11時ぐらいにオフィスに行きます。」と連絡がありました。カフェで仕事をした方が効率が上がったり、結果が出やすいのであればそれでもいいと思います。なぜなら仕事の合間も完全に付加価値になってきているからです。


今は、単純作業やメカニカル作業ではなく、クリエイティブな付加価値を生み出す部分が人間の仕事となり、それ以外は機械が行う時代になってきています。そんな中、機械的な働き方をさせると逆効果なので、自由にした方が良いんじゃないんかなと思います。


ー 時間や場所が固定されるストレスから解放される働き方。 素敵ですね。


一方で、カルチャーが醸成されにくいという弱点もあります。働く時間や場所を固定しないことで、メンバーがバラバラになっちゃうので。なので、オフィスではなるべく楽しい雰囲気を作って人が集まりやすいようにする。簡単ではないですが、そことのバランスが大切かな。

ー なるほど。働きやすさとカルチャーの共有のバランスが重要なのですね。



カルチャーバリューを重視した組織作り



ー 貴社はグローバルなメンバーで構成されていますが、組織を作る上で、普段はどういったことを意識されているのでしょうか?


うちのカルチャーバリューに合うかどうか、ですね。


弊社では“We are all designers!”という、全員がデザイナー的マインドセットを持つことを最終ゴールに置いています。それを達成するために、「Be Playful」「コラボレーションを重視しよう」「オーナーシップを持とう」「クリエイティビティで課題を解決する」という、4つのバリューがあります。スタッフに対しては、そこに繋がっている人かどうかという事を非常に重要視しています。


あとは会社のビジョンとして、“Inspiring Experience”という 1つのキーワードを掲げていています。クライアントさんとも、メンバー同士でもインスパイアさせる事が重要だと考えていて、その人と接することで発想が生まれる。そんな人たちの集まりにしたいと思っています。
役職や、何をしてどういう結果を生み出したいか、といったことは二の次で、先にカルチャーバリューやビジョンありきでやって、なるべくやりたいことを自由にできるような組織にしたいと考えていますね。


ー メンバーが、共通したマインドを持てるように取り組まれていることはありますか?


そうですね。

例えば、「インスパイアカード」という名刺サイズのカードを作っています。言動や行動で「すごくカルチャーに合っているな!」と思った人に、メッセージを書いて渡せるようにしていて、それをスタッフ同士で行っています。


ー それは素敵な取り組みですね! 個人的には、バリューの中の “Be Playful” も気になっていて......。最近、日本でも仕事に遊びの感覚を持つことが重要視され始めていますが、実際は、なかなか難しいように感じています。具体的にはどんな取り組みをされているのでしょうか?


「Be Playful」という面では、弊社もアメリカ人スタッフと日本人スタッフで比べると、日本人スタッフの方が苦手なんですよ。仕事っていうマインドセットがあって、ふざけちゃいけないっていう感覚があるんでしょうね。逆にアメリカ人スタッフは育っていく段階で遊びながら学ぶことを経験しているので上手。実は私も、スタッフから突然ドッキリを仕掛けられたことがあります(笑)。


他にも、誕生日のサプライズやハロウィンの仮装大会といったイベントごとや、気晴らしにスタッフみんなでジグソーパズルをしたり、オフィスに遊べるもの置いたりもしています。遊ぶように働く事で、楽しい雰囲気の中から新しいアイディアを生み出す事が出来ると思っています。


ー 最終ゴールが “We are all designers!”というお話がありましたが、デザイナーの育成で意識されていることを教えて下さい。


デザイナーの育成をする時は、生粋のデザイナー出身のスタッフとそうでないスタッフで教え方を変えています。
元々生粋のデザイナーだった場合、完璧主義だったりクオリティ重視の人が多い。一方、そうでない人は、ユーザーの想いをくみ取って作るタイプで、エンパシー重視である傾向が強い。だから、フィロソフィーの違いで、スタッフ同士バチバチぶつかり合うこともありますね。


最近、デザイン思考であったり、ユーザー視点での共感性がフィーチャーされていますが、私自身は例えユーザー視点から始めたとしても、最終的にデザイナーがもつ強烈な個性が必要だと思うんです。なぜなら、ユーザーの声を聴いて物を作ると意外と面白くないから。

優等生なんですけど、尖っていない。そこはデザイナー的感覚とか、想いの強さでグッと引っ張る、良いバイヤスをかける必要があると思っています。だから、デザイナーを育成する時はその二つのレイヤーで教える必要があると思っています。優等生的にユーザー視点をキープするのは大切だけど、最後の最後で必要になってくるのはもっとクリエイティブ。


ユーザー至上主義とクリエイティブ至上主義。そのバランスであったり、お客さんがどこまでついてきているのか、また、どこまでついて来てもらう必要があるのか、といったことは永遠のテーマですね。



クライアントにとっての「鎮痛剤的存在」を目指して



ー 会社・事業についてどんな展望をお持ちでしょうか?


今年の頭に発表したのですが、三年位を目途に達成したい二つのゴールがあります。


一つ目は、弊社をお客様にとってエッセンシャルな存在に変換したいということ。実は、弊社が行っているデザインのサービスって、どうしてもクライアントの方にとって必要不可欠じゃない。いわゆる”Nice to have”といった感覚に近い、オプション的な存在なんです。


“Vitamin” or “Painkiller?”という、よくスタートアップで例えられる表現があるのですが、直訳すると「サプリメントなのか鎮痛剤なのか」という意味。サプリメントは別に飲まなくても死なないし、そんなに苦しくない。それを、鎮痛剤に寄せるほど必要不可欠な存在になりたいと考えています。サプリメントなのか鎮痛剤なのかと考えた時、私達はまだまだ企業にとってサプリメント的な存在です。「将来の為に、なんとなくデザイン経営をやっておこう」であったり、「今デザインが重要だから試してみよう」であったり。


これがないと本当に苦しい、まずい、どうしようもない、と思われる「鎮痛剤的存在」にならなければと思っていますし、クライアントからも「btraxが存在していなければ本当に困る」と思われる存在になりたいですね。


二つ目は、世の中に見えづらいデザイン教育などのサービスを、アウトプット重視のリザルトにすること。


特にデザイン教育は、多数の有名企業と共に様々なプロジェクトに取り組んでいるのですが、機密性が高いが故に、世の中に成果を出せることが本当に少ないんです。先にお話した「エッセンシャルな存在に変換したい」という目標にもあるように、もっと弊社の存在を世の中に知っていただけるよう、今後はより一層、話題になるような結果を出していきたいと思いますね。


ー ありがとうございました。




btraxのデザイン思考を用いた組織づくり・働き方はまさにデザイン経営を体現している。作ったら終わりではなく、未来を見据え日々人々のニーズに合わせて事業も働き方もスピーディーに作り変える。話の最中には「経営はなかなか大変」と苦笑される場面もあったが、その瞳は常に未来を見据えているのだろう。


理想に向かって邁進するbtraxの経営に今後も注目したい。



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