空調事業を軸に、多彩な製品・サービスをグローバルに展開するダイキン工業株式会社。2015年11月には、異業種・異分野の技術をもつ企業や大学、研究機関との「協創」によるイノベーションを目的としたテクノロジー・イノベーションセンターを設立。
専門領域の異なる技術者が一堂に会し、議論と研究をすることで経て生み出された製品は、グッドデザイン賞をはじめとした、数々のデザイン賞を獲得している。
それらの優れた製品はどのようにして生まれたのか、先端デザイングループ主任技師の関 康一郎 氏に、デザイン経営という視点を軸にお話を伺った。
イノベーションを起こすドライバーとしての役割
―テクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)が設立された目的を教えてください。
目的としては2つあります。
まず1つ目ですが、これまでは技術開発を進めていくうえで、例えば空調だったら大阪の堺製作所 、家庭用だったら滋賀製作所というように、商品のジャンルごとに製作拠点が分かれていました。そうして散らばっていた技術や知識を一か所に集めることでシナジー効果を生み出し、コア技術の研究に活かすという目的。
2つ目は、ダイキン1社だけではなく異業種や異分野の方々と連携し、「協創」することでイノベーションを起こすという目的です。
―次に関さんが所属されている、先端デザイングループの役割についてお聞かせください。
デザイングループの役割の一つに、イノベーションを起こすドライバー的な役割があると思っています。
例えばそれぞれのプロジェクトで、具体的にイメージしづらいコンセプトや未来のビジョンを画にし、視覚化することがあります。 技術者たちが「この研究は何の役に立つのか」とか「技術は良いけど、商品のイメージが浮かばない」と悩むことがあります。そうした時に、コンセプトやビジョンをわかりやすくまとめて伝えることで、自分たちの研究が社会に貢献できる仕事なんだと実感でき、商品を使うお客様の喜ぶ姿が画としてイメージできるようになるのです。
それによってプロジェクトの停滞感も打破されますし、モチベーションの向上にも繋がります。コミュニケーションも活発になり、PDCAのサイクルも早く回る様になったのではないでしょうか。
―まさにデザイン経営的な役割だと思います。
「きれいな空気と暮らす体験」をデザインする
―貴社のデザインにおける、こだわりはどういったものでしょうか?
今まさにダイキンのデザインのこだわりを、どういった方向にするかということを考えているところではありますが、一つ、こうかなと思うことはあります。
ダイキンは「大阪金属工業所」という非常に古くからある金属加工メーカーからできた会社です。一般的には、業務用空調のイメージが強いと思うんですが、「安定して冷えて、壊れず質実剛健で、信頼を一番大切にしている」っていう、安心のブランドだと僕は思っているんですよ。
なので、デザインでも期待を裏切らないとか、隅々まで配慮されていること、あとは質実剛健であること。そういったところがこだわりのポイントだと思っています。
―見た目だけではなく、使っていて安心を感じることもこだわりなんですね。
そうですね。お客様が「ダイキンさんを使っておけば間違いない」というようなことが感じられるような。
―具体的にそのこだわりが反映されている製品を教えてください。
それでいうと、例えば僕らが「空気の箱」と呼んでいる空気清浄機。
まず内側の構造は、お掃除やメンテナンスがしやすいよう、デザインにこだわっています。
次に外側の表示部のインジケータ―は、過剰に機能を主張せず、空気がきれいになるとブルーの光でお知らせ、というように、シンプルでわかりやすく伝えることにこだわりました。お客様が欲しいのはきれいな空気だけなので、「きれいな空気と暮らす体験のデザイン」を心掛けています。
空気って人に寄り添っているじゃないですか。あまり主張して「空気清浄機がここにありまっせ」って感じじゃなくて、さりげなくお客様の生活を支えていて、ふと気づいたときにダイキンがいるんだなと覚えてもらえたらうれしいです。
そうした包容力や安心感が、ダイキンのブランドに繋がってると思っています。
ブランドに資するデザイン
―これまで、どのようにしてデザイン力を向上させてきたか、教えてください。
基本的にはモノづくり、機械などのハードのメーカーという文化もあって、少し前までは社内のデザインに対する認知も進んでいませんでした。ある程度、商品の技術的な構造が出来たあとで、「かっこよく見せる外観つくってよ」と言われていたんです。
ただ、スマホが普及して、UXという言葉なども出てきて。そのころくらいから徐々に商品のコントローラーなど、使いやすさだけでなく、顧客体験となるコンテンツとしてデザインを考えるようになってきました。一気に変えるようになったのはTICに来させていただいてからですが、ビジョンやUXに携わる仕事に本格的に取り組むようになり、デザインに対する認知も徐々に進んできたと思います。
僕はブランドに資するデザインが、一番の経営のデザインだと思っているんです。Appleなどがやっているようなエコシステムとよばれるもの、そういったものをデザイン思考で作り上げるっていうのは最上位だと思いますが、そこに至る一歩手前で、まずはダイキンとお客様が接する体験をきれいに整理整頓しながら、ダイキンのブランド体験というものを確立したいなと思っています。
未来の子供たちがやりがいや誇りをもって働けるように
―最後に、関さん自身のビジョンをお聞かせください。
僕は日本のデザインの認知が、グローバルな視点で見たときに遅れていると思っているんですよ。
日本男児的な言い方になったら申し訳ないんですけど、日本の未来の子供たちが、生きがいや誇りをもって日本の企業で働ける、そして産業発展のためにも日本のデザイン力を、ダイキンという会社を通じて高めていきたいと思っています。結果として、ダイキンという会社が影響を与えていき、産業を盛り上げていければなと。それが僕のシンプルなビジョンですね。
―未来の子供たちに何を残していくのか、非常に重要なテーマだと思います。
そうなんです。日本って四季があるじゃないですか。だからこそ繊細な空調技術も生まれると思いますし、デザインも生まれると思うので、日本人がもっている繊細な美意識というものを継承し、強みにしながら、グローバルの中で自信をもって戦っていけるようなデザイナー、デザインの責任者でありたいなと思っています。
― 私達もぜひ応援させていただきます。本日はどうもありがとうございました。
グッドデザイン賞をはじめとした数多くの賞を受賞するなど、注目を集めるダイキン工業のデザイン。その裏側には「見た目のデザイン」だけに留まらない、イノベーションを起こすドライバーとしてのデザインの役割があった。
「空気の力でよく眠れたり、おいしい食事をできたりする。そんな見えない空気をデザインして人を幸せにするなんて、世界で一番可能性がある領域だと思うんです」と楽しそうに話す関氏。「空気で答えを出す」ダイキン工業のさらなる活躍に注目したい。
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