【インタビュー】最適なマッチングをデザイン。学生の可能性を拡げる新しい新卒採用のカタチ

企業から学生に直接オファーを送ることができるダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」を展開する株式会社i-plug。新卒採用に特化し、高精度なマッチングと効率的な採用活動が、近年、学生や企業の間で注目を集めている。「ユーザーの声を聞き、日々進化し続けている」というそのサービス開発の裏側とは。そして、同社が描く新卒採用の未来とは。デザインと経営という視点から、代表の中野氏、取締役の田中氏に詳しい話を伺った。



ユーザーの声に耳を傾けることで、支持されるサービスをつくる



- 現在、就職活動をする学生さんの4人に1人は利用しているという「OfferBox」ですが、そもそも「ダイレクトリクルーティングサービス」ってどういう仕組みなんでしょうか?


中野:従来の「学生が企業にエントリーする」という仕組みが、簡単に言うと真逆になっている、という感じですね。学生がプロフィールを書き込み、それを見て興味を持った企業が声をかける。その際、企業側はエージェントなどを介さず、直接データベースに接続して自社に合う人材を探しコミュニケーションを取ることが出来る、という仕組みです。


- なるほど。最近では、同様の仕組みのサービスも増えてきているようですが、「OfferBox」の特徴はどういったところでしょう?


中野:一つは、企業が送付できるオファーの数と、学生がオファーを受けることができる企業の数を制限していることです。これは、企業も学生も、会う相手の数をあまりに増やしすぎると、じっくりと会話をする時間が取れず、かえってマッチングの精度を下げることにつながると考えているからです。

また、現在強化をしているミスマッチの改善に向けた取り組みも特徴の一つですね。実は、「パーソナリティのデータ」と「入社後の活躍」、この二つには相関関係があるんです。なので、企業が、現在活躍している社員のパーソナリティの特徴から学生を探せるような機能を強化し、将来的には採用後のミスマッチを改善していこうと動いています。いずれも「マッチングの精度とコミュニケーションの心地よさ」を高める取り組みの一環ですが、これが結果としてユーザー満足度にもつながってきていると思いますね。


- 確かに、私にも就活の広報解禁と同時に大量にエントリーし、結果なかなか内定が貰えなかった苦い記憶があります。そういった点でも、従来の新卒採用とは全く違う形だと思うのですが、当初から現在のビジネスモデルを構想されていたんですか?


中野:いえ、当初考えていたものとは全く違う形になっていて、残っているのは「オファー」と「成功報酬」あとは「オファー送信数の制限」くらいです。過去の失敗経験からも、この事業を始める際に創業メンバーで話し合い、机上の空論で動くのはやめようと決めていて。実際には100社の企業と200人の学生にインタビューを実施し、そこで得た意見をもとに改善を繰り返していきました。


田中:サービスをリリースした年の就活解禁日は12月1日で、それに間に合わせるためにとにかくスピーディにサービスのリリースを目指して取り組みました。100点満点ではなく、60点にも満たない状態でリリースし、その後ユーザーの声に耳を傾けつつ作り込んでいった形です。その当時「リーン・スタートアップ」という書籍が爆発的に売れていたのですが、振り返って考えてみるとまさにそういう手法でサービスをスタートしました。


- デザイン経営で取り上げられている「アジャイル開発」にも通じるものがありますね。


田中:そうですね。当初はβ版もない状態なので、企業に伺う際は、いわゆるモックのような紙の企画書を持参しました。営業しても聞いてもらえないので「こんなサービスを始めようと思うんですが、どうですか?」「どんなサービスなら使いたいですか?」って聞いて回ってましたね。


中野:毎日変わる企画書ね(笑)。


田中:そうそう。日々サービスがブラッシュアップされていくので、企画書も毎日アップデートしていました(笑)。




定性と定量の両面から、サービスの提供価値を高めていく



- 「OfferBox」は、特に学生さんの口コミをきっかけに広がりを見せているそうですが、ユーザー体験含め、サービスをデザインする上で特に大切にされていることは何ですか?


田中:「実際にOfferBoxを利用することで、どのような価値を感じていただけているか」という点は、かなり重要な指標として見ています。現在は、企業側も学生側も顧客ロイヤルティを測るべくNPS(ネット・プロモーター・スコア)を導入しています。新たな機能を開発する際も、学生に使ってもらいつつ、その時の感情を言葉に出してもらいながら、それを記録することもあります。いわゆるサービス利用中のカスタマージャーニーを作ったりもしています。

加えて、「整合性」も大事にしていますね。


- 「整合性」と言いますと?


田中:例えば、企業のミッション・ビジョン・バリューと事業との整合性や、外部環境の変化との整合性など。「これは本当に必要なのか?」「ボタンは本当にこの色で良いのか?」など、細かな部分まで議論をします。細部へのこだわりが、サービスの提供価値を高めていくことにつながると思っています。


中野:感覚的なものだけでは判断しかねるので、定量的なところと両面で見ています。実際に、サービスに対する満足度など、感覚的な側面はすべて定量で取れるはず。例えば、満足度が高ければ、口コミをきっかけに登録する学生さんの割合や企業のリピート率は上がります。採用人数が増えると自ずと一社あたりの取引単価が上がるので、そういった点を見ていったり。



- 感情などの定性的な側面を大事にしつつ、それを定量的に捉えて判断する。2つの側面をバランス良く取り入れておられるんですね。少し話は戻りますが、「デザイン経営」という言葉について、お二人はどのような印象をお持ちですか?


田中:経営も事業も組織も「設計」していくもの。この「設計」という言葉は「デザイン」に置き換えられると思います。だから、経営にデザインを取り入れるのは当たり前のことなのかなと。カスタマー・エクスペリエンスやエンプロイー・エクスペリエンスを重視する声もありますが、組織開発に取り組むメンバーには「エンプロイー・サクセスだ」とも言っています。要は、働く中で良い体験を提供するだけでなく、成功を掴んでもらいたい。だから、弊社のサービスを通して、働く人をいかにして成功に導くか。そこをしっかり考えてデザインしていく必要があると感じています。


中野:ふと思ったのですが、デザインに力を入れることとマネタイズの方法って、相関関係にあるのかもしれません。例えば、先に費用をもらう場合、エントリーや採用の有無に関わらず、売り抜くことに意味がある。そうなると後工程はさほど重要ではなくなり、デザインに投資する意味があまりないんです。一方、弊社のような成功報酬型だと、全てが連動するので、体験の質や満足度を上げるためには、自ずとデザインも重要になってくるんだと思いますね。


- なるほど。ちなみに経営者とデザイナーはどんな関係性が理想だと思いますか?


中野:デザイナーに限らず、どんな職種でも現場で働く人が最もエンドユーザーに近く、専門性が高いですよね。一方で、経営者はある種、専門性がゼロなので、互いに聞き合って進めていくものだと考えています。経営者が得意なのはバランスをとること。各部署のメンバーに最適な仕事を配分することに加えて、外部の顧客や他社とのバランスを取り、互いにWin-WInな関係性を築いていく必要があると考えています。




最適なマッチングを実現し、学生の可能性を拡げる



- 「OfferBox」の登場により、新卒採用の形も大きく変わってきていると思うのですが、採用活動の未来について、どのような想像をされていますか?


中野:より一層、企業側は「自社に合う人材を直接検索する形」に割合が増えていくと思いますね。エントリーから確率論で自社にあう人材が来るのを待つより、単純にそちらのほうが探すコストや採用にかかるコストが下がると思います。また、求職者は自分にあった企業をGoogle検索のように探す形に変わっていくと思います。企業も求職者もより便利なほうへと移っていくと思います。


- 企業や学生のコミュニケーションも変わってきそうですか?


中野:そうですね。昔は文通だったものが電話になり、今ではメールすら送らず、当たり前のようにSNSでつながってメッセージを送り合うようになりました。「拝啓」なんて書き出しは久しく使っていないですし、少し堅苦しく感じますよね(笑)。それに、SNSでつながっていれば、相手の日常が常にタイムライン上に流れてくるので距離も離れない。

そんな風に、コミュニケーションの仕方がより速く、より軽くなってくると思いますね。これにより心理的距離は近づき、コミュニケーションの距離が近いほうが居心地良く感じるかもしれません。だから弊社でも、大学生・大学・企業の最適な「つながり」を模索していく必要があると考えています。



- そんな中で、今後はどんな展開を考えておられるのでしょうか?


中野:「新卒で入社した社員が3年以内に3割辞めるミスマッチを解消する」ことを中期的なビジョンとして掲げています。

現在、年約70万人の大学生が卒業する中、約20万人が入社後短期で離職。その原因の多くが「雇用のミスマッチ」と言われています。学生は、入社3年以内に辞めることでキャリアダウンになるケースも多く、後のキャリアに大きく影響する1社目は、より真剣に選ぶべきだと思うんです。

だから弊社では、入社時のミスマッチを改善することで、双方が入社後も活躍できるビジョンを持って就職や採用ができるようにしていきたい。さらには、社会に出て活躍する人を増やすために、学生に対して成長を加速させるような教育事業をやっていきたいと考えています。


- 入社後の活躍にも力を入れておられるんですね。


中野:そうですね。僕自身、以前は転職支援サービスをやってきたのですが、離職理由の大半は「活躍できていないから」なんです。課題だと感じたのは、入社選考時の面接官による評価と採用された人の入社後の活躍には、全く相関関係がないこと。

人を採用するトータルコストは一人あたり約一億円と言われていますが、同じ一億円でも、工場を建てる時には稟議を上げて精緻に審査するのに、人の採用は結構簡単に決めてしまいますよね。工場を建てるためには専門的な職種があるのに、人のパフォーマンスを予測する上では専門的な職種がない。そこが根本的かつ解決しがたい課題でもあるので、そんな雇用のミスマッチが解決出来るサービスを目指しています。


- ありがとうございました。




時短正社員や在宅勤務をはじめ、社員が自分らしく活躍できる環境づくりに取り組んでいるという株式会社i-plug。ユーザーから支持され続けるサービスがつくれる要因のひとつが、そのような環境づくりによるものだと感じた。

学生や企業の声を起点にサービスをつくり、スピーディに改善を重ねていく。バックグラウンドの異なる5人の経営陣のもと、絶妙なバランス感覚で事業を拡大している。今後も同社が描く「新しい新卒採用のカタチ」に注目したい。


(写真左から、取締役兼CHRO 田中氏、代表取締役社長 中野氏)

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