【インタビュー】ご当地ブランドを通して、世界中の人に感動を届けたい。天創堂が目指す「新しい消費のカタチ」


大阪・通天閣の守り神として有名な「ビリケンさん」や、大阪マラソン、京都マラソンといった「ご当地マラソン」。それらの「ライセンス管理」というユニークな事業を生業とする、天創堂株式会社の代表、粕井健次さん。一度は経営の危機を迎えた同社が、ビリケンさんのライセンス管理をきっかけに再起を果たした裏側とは。そして、ご当地ブランド事業を通して、目指す理想の消費体験とは。「デザイン」という視点から詳しい話を伺いました。



「日本を元気にしたい」という想いで辿り着いた現在の事業



- 「ライセンス管理」という事業はあまり耳馴染みがないのですが、まずは貴社の事業内容について教えていただけますか?


「ご当地ブランド事業を通して、世界中の人に感動をお届けする」というミッションのもと、大きく3つの事業があります。1つ目は「ライセンス事業」で、通天閣のビリケンさんや、大阪マラソン、神戸マラソン、京都マラソンなどのライセンス事務局として、商標権の管理・運用、商品化コーディネートなどを行なっています。2つ目は「おみやげ物卸事業」で、全国各地の土産物を発掘し、外国人観光客が多く訪れる小売店やホテルに卸しています。こちらはメーカーさんだと70社以上、アイテム数にすると1500点以上の商品を扱っています。そして3つ目は「ご当地商品輸出事業」。シンガポール、タイ、アメリカなどの小売店へ、インバウンドで発掘したご当地商品や、自社で手がけたライセンス商品・オリジナル商品を海外に輸出しています。


- ライセンス事業と卸事業と輸出、3つの事業があるんですね。前職は六本木ヒルズのITベンチャー企業で働かれていたと拝見したのですが、そこで培った経験を活かして?


初めはそうでした。大学卒業後、3年で起業することを宣言し、その修行のつもりでモバイルインターネットのベンチャー企業に就職しました。そこで約2年半働いた後、2009年10月に天創堂を設立。前職の経験を活かし、GPS連動型のモバイルクーポンサイトを立ち上げました。しかし、思うようにうまくいかず倒産寸前、あえなく撤退することになってしまい......。

その後、まずは食べていくためにと、前職の経験を活かしWebサイトの制作や、サイトへの集客といった、いわゆるBtoB向けの受託制作の仕事を始めたのが前身ですね。


- そんな経緯があったんですね。実際はそこから一念発起して事業転換。ご当地ブランドのお仕事などを始められるわけですが、何かきっかけがあったのでしょうか?


食べていくために働く中で、ふと疑問が湧いたんです。「自分は一体何のために働いているんだろう?」と。そこから「本当にやりたいことは何か?」と自問自答を繰り返した先に見えた答えが「日本を元気にしたい」という想いだったんです。じゃあ一体、何が日本の活性化に繋がる仕事なのか、そう考えた時に浮かんできたのが、受託制作の仕事をする中で出会ったご当地ブランドの「ビリケンさん」でした。


- 「日本を元気にしたい」という想いが観光産業であるご当地ブランドに繋がったと。ビリケンさんとはそれ以前から受託業務を通して繋がりがあったんですね。


そうですね。企業へWebサイトの受託制作のテレアポをする中で、「せっかくやるなら関西らしいユニークな企業に関わりたい」と思って見つけたのがビリケンさんのWebサイトでした。当時はあまりプロモーションにも力を入れられておらず、お世辞にも「イケてるサイト」とは言い難いもので、非常にもったいないと感じたんです。

ちょうどTwitterやFacebookといったSNSが台頭してきた時代でしたし、それらをもっとうまく活用して発信していくことで、ビリケンさんをより多くの人に知ってもらい、グッズの売り上げも増やすことができるのではないかと。大阪では誰もが知るシンボルということで、可能性を感じましたね。そこから版権元である、老舗の繊維専門商社の田村駒(たむらこま)さんにアプローチをしたのがきっかけで、「ビリケンさん」の案件に携わるようになりました。





ビリケンさんヒットの裏にあるデザインの力



- ビリケンさんの案件では、当初からライセンス管理などを任されていたんですか?


いえ、当初はWebサイトの運営のみでした。サイトのリニューアルや更新を行ううちに、「クライアントが本当に求めていることは何だろう?」と考え始めて。そこで浮かんだのが、「ファンを増やす」ことだったんです。

版権元にとっては、その権利が正しく使われ、多くの商品を生み出すことで、売り上げに繋がる。版権元、ライセンスを使用するライセンシー、そして天創堂の3者がwin-winの関係性になるためには、ビリケンさんの認知度を上げ、グッズを購入してくださるファンを増やす必要があると考えました。そんな想いのもと提案したのが、ビリケンさんの「新しいデザイン」ですね。


- 「新しいデザイン」と言いますと?


現在、ビリケンさんのデザインには大きく2つのパターンがあります。左側が「Symbols(シンボルズ)」と言って、以前から使われていたデザイン。そして右側が「Characters(キャラクターズ)」と言って、僕たちが提案したデザインです。こちらは、左側の3代目のビリケン像をモデルに、フォルムや表情を可愛らしくしています。



- 同じビリケンさんでも全く印象が違いますね!


従来のビリケンさんは、比較的どっしりとしてクラシカルな印象というか。表情に愛らしさはあるものの、子どもたちには「怖い」と思われることがあったり、若者やファミリー層にはあまり馴染みがないものでした。ですが今後、より多くの方にビリケンさんを知っていただくためには、親しみやすく可愛らしい印象で、小さなお子さんや若年層にも受け入れていただくことが必要だと考えたんです。


- 消費者の視点に立ったリデザインとも言えますね。


そうですね。実際に新デザインで製作したグッズは、これまで購入してもらえなかった層にも手をのばしていただくことが出来ましたし、そこから徐々にクライアントである田村駒さんからプロモーション全般や商品化など、サイト運営以外のお仕事も任せていただけるようになりました。

ライセンス事務局の役割としては、このビリケンさんを使いたいというメーカーさんをいかに増やすか、さらにその先、ビリケンさんの商品を扱いたいというお店をどれだけ増やすか。つまり、どれだけ「欲しい」と思ってもらえる消費者を増やすか、ということが大きな仕事だと考えています。


- ここまで、ビリケンさんのデザインについてのお話を伺ってきましたが、粕井さんにとって「デザイン」とはどういうものでしょう?


想像(イマジネーション)を形にするもの、ですかね。「こんなものがあったら良いな」とか「こんなものがあったら便利だな、おもしろいな」っていう、ぼんやりとした想像や発想ってありますよね。それを具体的に形に落とし込んでいくこと、設計だったり、ビジュアル的な部分を描いていくことを含めて「デザイン」かなと思っています。


- なるほど。最近はデザイナーさんが経営に参画されるケースが増えてきていますが、粕井さんが経営者として、デザイナーさんに求めることは何でしょう?


ビジネス的な視点を持っているデザイナーさんは良いですね。企業のブランドイメージだったり、売上だったり、集客や購買率なんかも考えて話ができたり。

デザイナーさんが持つ独創性や想像力、自由な発想は大事にしつつも、会社である以上、付加価値、利益を生む必要があります。だから、「こんなものを作りたい!」という想いを大切にしながら、最終的には消費者に受け入れられ、支持され、売れるものを作っていくことがデザインの価値だとも思いますね。




単なる消費で終わらせない、天創堂だから描ける感動を与える消費



- 最後に、会社の未来像について聞かせてください。


「新しい消費のカタチ」を創造していきたいと思っています。

今はネット通販などを利用すれば、どこにいたって24時間365日、比較的安価でモノが買えます。それはそれですごく便利ですが、何事も「便利で安い」だけが良いことではないとも思うんです。例えば、特定の場所からしかアクセスできないネットショップがあっても面白いと思います(笑)。

そんな風に、時代の潮流に流されず、新しい消費のあり方を考えていきたいと思っています。


- それは面白いですね! インバウンド市場とも親和性が高そうです。


そうですよね。弊社では今後やっていきたいことの一つとして、「日本の文化」を一つのコンテンツとして捉えた、体験型の催事を海外で展開していくことも考えています。例えば、海外のショッピングモールで日本の縁日を再現するんです。入り口には鳥居があって、奥には金魚すくいや射的といった屋台を並べます。そこでは、お相撲さんが餅つきをして、舞妓さんがお餅を運んで、忍者がお会計をしてくれる。そんな日本の文化を体感できるイベントがあれば面白いんじゃないかなと(笑)。

単純に「日本のものですよ、どうぞ」というだけでは、なかなか心が動かないんじゃないかと思うんです。だからご当地ブランドにしても、モノだけでなく、イベントや体験として売ることで、単なる消費ではなく、もっと日本を身近に感じてもらえたり、思い出として記憶に残してもらえるんじゃないかなって。


- それは、ご当地ブランドのライセンス事業や、インバウンドのお土産物を扱う天創堂だからこそできることでもありますね。


そうかもしれません。5年後、10年後……100年後に「天創堂があって良かった」と、社内からも社外からも言われるようになることが一番嬉しいですね。

最初にお話したように、弊社のミッションは「ご当地ブランド事業を通して、世界中の人に感動をお届けする」ということ。日本やその地域にある固有の文化や個性を発掘して、知財共有のできるライセンスを開発・管理を行う。そして、地場のメーカーさんと外国人に人気がでる商品を開発する事で、ご当地ブランドを発展させていくお手伝いをしています。実際に僕たちが関わらせて頂いたことで生み出せた商品、供給できた商品もたくさんあります。一つ一つの取り扱う商品を大切に扱い、一つでも多くお客様の手に渡るように全力を尽くし、様々な国のたくさんの人に思い出や感動をお届けできればと思いますね。


- ありがとうございました。




「時代はモノ消費からコト消費へと変化している」という言葉を、ここ数年で多く見かけるようになった。あらゆる企業が従来の商品に、体験や、目に見えない付加価値を付けて新たな売り方を模索しているものの、それを世間に受け入れてもらうのは決して簡単なことではない。

「知的財産権を管理、発展させつつ、卸としてインバウンド、輸出での販路拡大も担う会社は、他にあまりないんじゃないかな」という粕井さん。その言葉のとおり、天創堂は自社のアイデンティティを存分に活かした上で未来を描き、「新しい消費のカタチ」へ挑戦しているのだと感じた。数年後、きっと同社は今では想像もつかないような「新しい消費のカタチ」を創造しているだろう。


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