【インタビュー】遊びと学びのソーシャルフェス®。「問いかけ」から拡がる意識のデザイン。

日本で初めて、ヘッドホンで楽しむ音楽フェス 「サイレントフェス® 」を立ち上げたOzone合同会社。遊びと学びを融合させた体験を目指し、独自のプロジェクト「ソーシャルフェス®」を始動している。本来「遊び」の要素が強いフェスに対し、何故学びを取り入れたのか、フェスから描く未来像とは何か、代表の雨宮氏にお話を伺った。




「正しいっぽいこと」を見つめ直すきっかけとして



-まず、ソーシャルフェス®とはどういったものか、教えてください。


ソーシャルフェス®は「SDGs」の中で挙げられた課題から一つを選び、その課題が達成された後の世界を「1日限りの現実としてフェスでエンターテイメント的に表現する」というプロジェクトです。

「SDGs」とは、国連が定めた「持続可能な開発のための17の目標」のことで、貧困や飢餓などの持続可能な社会の実現のために取り組むべき課題が挙げられています。ソーシャルフェス®プロジェクトでは「SDGs10/3」人や国の不平等をなくした世界観を感覚的に表現した「サイレントフェス®(上部写真)」や、「SDGs12/3」ファーミングをチャーミングにして顔の見える消費の先の世界を表現した「Mud Land Fest」など、数々のフェスを開催してきました。



(出典:国連広報センター)



-何故、「SDGs」が達成された後の世界をフェスで表現しようと思われたのでしょうか?


世の中にある「正しいっぽいこと」が本当に自分にとって「正しいこと」なのかを、自分の頭で考えるきっかけをつくりたかったからです。


-「正しいっぽいこと」ですか?


そうです。例えば、悪は懲らしめなきゃいけないとか、就活のエントリーは100社以上しないといけないとか。個人の哲学を介さずに正しいものとして伝達され、常識になっていく環境に居心地の悪さを感じていました。

あるきっかけで教育に携わることがあり、そこでも同じような違和感を感じたので、当初は自らの体験を通して感性を鮮やかにしていける学校をつくろうと考えました。


-初めは学校をつくろうと考えていたんですね。何故それがフェスになったのでしょうか。


一時は学校をつくろうと動いていたのですが、学ぶ機会を増やすためには、あらかじめ「学ぶ場所」であることを銘打たず、敷居を低くする方が良いと気付きました。そこで、学校ではなくエンターテインメントを混ぜた形にできないかと考えました。

当時から、音楽やフェスの空気感が好きだったので、教育が持つ「技術」をフェスティバルが持つ「文化」に取り入た「エデュテインメント(エデュケーション+エンターテインメント)」という体系でプロジェクトにしようと考えました。

そんなプロジェクトを考えていた時に、冒頭でお話した「SDGs」が発表されてソーシャルデザインとして認知されていったので、「SDGs」を取り入れたソーシャルフェス®という形に行き着きました。




学びや医療、音楽体験の新しい価値



-ソーシャルフェスは学びの場でもあるわけですね。


そうですね。「エデュテインメント」という手法は、エンターテインメント的な敷居の低い体験から学びの種となるような気づきを得ていく手法です。その考え方をもとにプロジェクト化した「ソーシャルフェス®」ではつくり手と来場者の両軸に学びがあります。

フェスのつくり手は、「SDGs」の課題が解決された未来がどのようなものか考えることで学びを得ます。企画は課題に取り組んでいる企業や自治体と一緒にやることもあり、つくり手が社会問題と向き合って自分の頭で考えるというところに意味を置いています。

フェスの来場者に向けては、ひっかかりのあるデザインや体験を仕組むことで考えるきっかけをつくっています。




-ひっかかりのあるデザインとはどういうものでしょうか?


例えば、(公財)太田区文化振興協会と開催させていただいた「Neo盆踊り(上部写真)」なんですが、このお祭りでは参加者に絶滅危惧動物のお面をつけてもらいました。祭りによる自己変化欲の対象を動物に設定して、「生物の種類が多いのと少ないのどっちが楽しい?」というシンプルな問いを投げかけています。また、お面の裏側にはその動物の絶滅状況を書いていて、楽しいことには裏があるという小賢しい仕掛けもしたりしました。楽しいまま帰るのも尊いんですが、こんな時代なんで、全ての物事に意味は一応仕組んでいます。


-それは考えさせられますね。フェスで教育や社会の価値観を変えようとされているのですか?

日本の教育システムは20世紀型のままだと思います。働き方や企業経営もそうですが、20世紀は「ここまでいけば成功だ」「100点とるぞ」といった、皆で1つの目標を目指して頑張る山登りのようだったと考えています。

でも、今の時代はもっと柔軟で山登りというよりは波乗り、むしろ波を起こすという感じが近いと思います。

刻々と変化していく時代の波に乗っかったり、もしくは波を起こしたりして、ビジネスが進んでいく時代において教育や企業経営の変化が遅いと感じています。

フェス自体に文科省や官僚を動かすパワーは無いと思いますが、こういうコンテンツを通して大田区のような実績をつくることで、後々本気で社会を変えようと思う人が動きやすくなるんじゃないかなと思っています。

自分自身は、社会は変えるより創る方が早いと思うので、フェスを最小スケールの社会として捉え、これからつくっていく新しい社会の仮説検証をして、仲間を集めてます。


-地道に実績を増やし、未来を動かす種をまいているんですね。今後はどのような事業展開を考えていますか?


フェス自体は、2030年までに「SDGs」で挙がっている17の目標全てに対するのフェスをつくりたいと思っています。

別ではマインドセットから意味を変えていく「KOKU」という場をつくり、その中で予防医療としての音楽を文化にするプロジェクトをつくろうとしています。

音楽の楽という漢字は薬から来ているらしく、予防医療とライブコンテンツをもっと紐付けられそうだと考えました。例えば、「社会に閉塞感を感じながら自分の表現ができずもどかしさを感じている」症状の人には「一人で居ながら皆と繋がる感覚が味わえる」薬効があるサイレントフェス®がいいですよという感じで。

音楽の体験を処方箋として毎日提供できるような箱をつくって、そこで予防医療としての音楽と豊かな暮らしができる、という場をみんなでシェアしてつくりたいと考えています。




解決ではなく、問いかけるデザイン




-次々と新しい音楽体験をデザインされている雨宮さんにとって、デザインとはどういうものでしょうか?


ごちゃごちゃな大きいものを一つの記号として無理やり収めたのが「デザイン」という言葉だと思っています。

英語の「Design」を日本語でいうと何だろうって考えた時期があったんです。辞書には意匠とか設計とありますが、それだと「デザイン」が持つ直感的な美しさが損なわれている感じがしました。日本人の捉える「デザイン」と海外のネイティブが捉える「Design」は違うと思うし、デザインの範疇はとても広いと思います。

よくデザインは課題解決とされることが多いですが、僕がやっているのはスペキュラティブデザインという手法で、問題提起を主題としています。課題を問うことで対話を促し、イマジネーションを拡げていくデザインを取り入れています。


-解決ではなく、問いかけるデザインなんですね。


「SDGs」は課題ですが、ソーシャルフェス®は課題解決のためではなく、あくまで良さそうな未来を体験するためにつくっています。でも、そこで描いた未来が必ずしも正しい未来だとは思っていません。

正しいか分からないからこそやっているし、理想かどうか分からないから「問いかける」というデザインを意識しています。


-会社の中で、経営者とデザイナーはどのような関係にあるべきでしょうか?


法人って可視化できないじゃないですか。可視化できないものを、社会上の共通記号として他者に認識してもらうのであれば、互いのコンテクストを理解し合える必要があると思います。

言葉一つとっても、一人ひとり描くイメージが微妙に違っていたりしますよね。例えば「自由」という言葉をイメージしても、お互いその「自由」という言葉の概念が微妙に違ったりするんです。その文脈をどれだけ汲み取り合える関係性であるかが、経営者とデザイナーにとって大事だと思っています。


-歩み寄る関係性が重要かもしれませんね。最後に、雨宮さんの描く会社の未来像を教えてください。


最終的にはOzoneという会社自体がスペキュラティブデザインになって、「存在自体が問い」というブランディングをしていけたらいいなと思っています。例えば、従業員を一人雇っただけで、周囲の人たちを深い問いに誘ってしまう、みたいな(笑)。

そういう、世の中の変化率を最大化できる媒体になればいいなと思います。


-ありがとうございました。




問いかけから始まり、あるべき理想の未来を描く。まさにデザイン経営の第一歩を、そのまま事業として立ち上げられている雨宮氏。数多くの未来を想像し視覚化することで、理想を探るデザインプロセスは、経営におけるあらゆるシーンで取り入れられるべきではないだろうか。雨宮氏がデザインする体験から多くの問いが拡がり、良い変化をもたらすことに期待したい。


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