約400種もの珍味商品を展開している酒の肴の専門メーカー伍魚福(ごぎょふく)。「珍味を極める」をスローガンに、常に新しい食文化を発信している。代表の山中氏は、以前からデザインに関心があり、勉強会にも頻繁に参加しているという。デザインの力をどのように経営に活かしているのか、お話を伺った。
お客さまを喜ばせるために、まず自分たちが仕事を楽しむ
- 伍魚福では、「神戸で一番おもしろい会社になろう!」と掲げていますが、その言葉に込められた想いについて教えてください。
自分たちが楽しんで仕事をすることが、お客さんが喜んでくれることにも繋がると思い、スローガンとしています。従業員やその家族にとって「おもしろい会社」になることは良い仕事に繋がり、お客様にとって「おもしろい会社」になることで成果に繋がり、会社の成長にも繋がり、待遇にも繋がり、一人ひとりの人生が豊かになっていく、そして、また良い仕事に繋がる、というようなサイクルが生まれるのではないかと考えていて。社員もパートさんも、うちの会社に何かしら期待をして働きに来てくれていると思うので、良い仕事ができて良い人生を送ってほしいという気持ちはありますね。 ただ、「おもしろい」の定義は人によりますし、会社で押しつけるのではなくて「高い成果を出しておもしろい」「ありがとうと喜んでもらえておもしろい」というように人それぞれの視点で実現してもらいたいです。
- 従業員の方たちのやりがいも大事にされているんですね。そんな風に「やりがい」を感じてもらうために、社内で実践されている取り組みがあるのでしょうか?
全従業員が商品開発に関わる「ヒット商品提案カード制度」を、10年ぐらいやっています。うちは工場を持たない会社なので、新商品のアイデアを出すことがとても重要なんです。なので、常にアンテナを立てていてほしい、ということもありますし、商品開発をしたいと思う人が多いので、その想いを活かしたいという気持ちもありました。
他にも、社長に直接提案や報告ができる「TG提報(TEAM GOGYOFUKU 提案 報告)」という取り組みもしています。現場の感じたことを聞いて、改善につなげていくような風通しの良い会社にしたいと思っています。
ロゴや名刺を一新、デザインの力を改めて実感
- 山中さんご自身も、以前からデザインに興味を持ち、勉強会にも頻繁に参加されていると伺いました。何かきっかけがあったのでしょうか。
一番のきっかけは、客層が変わったことですね。2000年頃からスーパーマーケットでも商品を展開するようになり、半分以上のお客さんが女性になりました。以前は、酒屋さんに卸していたので、そこに来る男性においしさが伝われば良かったのですが、女性がカゴに入れてもおかしくない商品にしないといけないな、と考えるようになりました。以前からデザインに対しては投資をしてきましたが、特に、このタイミングで客層が変わったことで、デザイン自体も変わる必要があると感じました。
あとは、神戸市がユネスコから「デザイン都市」に認定されたことや、たまたま訪れたNYの近代美術館に並ぶ日本の製品に刺激を受けたこともあります。そんな風に、自然にデザインのことを考えるようになって、ヨーロッパでも活躍されているプロダクトデザイナーの喜多俊之さん(以下、喜多さん)のセミナーなど、デザインに関する勉強会に行くようになりました。
喜多さんは、生活者目線で物事を見ることに長けた方なので、食品パッケージの話についても、なるほどなと思わせてくれるところがすごくありました。一番印象に残ったのは「その商品を買って帰って、テーブルの上に置いた時にもおいしそうに見えますか?」という言葉。僕らは、「売り場で目立たなあかん」と、つい思ってしまうんですよね。でも、人が貰ってどう思うか、食卓でどう見えるのか、生活者目線で考える必要があることに気付きました。
- 勉強会を経て、何か実践されたことはありますか?
そうですね、ロゴ、名刺、パッケージのリニューアルを行ったのですが、ロゴデザインは、喜多さんに意見をお聞きして今の形になりました。角を丸くしていて、「流行に左右されない」「普遍的」という意味合いもあり、会社として長く使うロゴとして良いかなと。
また、別の勉強会で学んだことなのですが、「良いと思うものは人それぞれ変わるが、嫌だと思うものはだいたい一致している。だから嫌だと思われるデザインを除いたものが、一番売れるデザインだ。」という話がありまして。ロゴを検討している時に、一般の方に「候補の中で、どれが一番嫌か」というアンケートを取りました。すると、今のロゴが一番嫌だという声が少なかったんです。このこともデザインの決め手になりました。
- 生活者の意見を踏まえて、ご検討されたんですね。名刺のリニューアルにはどのような経緯があったのでしょうか?
その頃、デザイン会社であるGRAPHで代表をされている北川一成さん(以下、北川さん)の講演会に行く機会があり、名刺交換をさせてもらったんですよ。それがきっかけで名刺のデザインをお願いすることになりました。北川さんにデザイン案を説明していただいたのですが、正直最初はびっくりしました。「珍味を極めるって?」「略してちんきわって?」「このハートはなんだろう?」と、ひっかかりがたくさんあって(笑)。響きとして、抵抗感を持った社員もいましたが、ちゃんとお話を聞いたら納得できたので、名刺だけでなく、会社のCIとして取り入れることを決断しました。
- 実際に名刺を使われて、何か変わりましたか?
名刺交換する度に「変わってますね」と話題になるようになりました。「珍味を極める」というフレーズも印象に残りますし。スーツの襟に「珍味を極める」バッジをつけていたら、ブログに書かれていたこともありました。ピンクのバッジを胸を張ってつけてるのえらいなって(笑)北川さんも「良い意味での違和感、心にひっかかりがあるから覚えてもらえる」とおっしゃっていましたし、改めてデザインには力があるなと思いました。
-「珍味を極める」というスローガンでブランディングをされていく上で、課題はありますか?
まだ、社内でも議論があります。「珍味を極める」というロゴを商品のパッケージにも入れているんですが、「一杯の珍極シリーズ」では違和感なく入っているけど、他の商品ではそうもいかない場合もあるし。あと、女性の方が恥ずかしいと思うのでは、という懸念もあります。梅田の阪神百貨店で直営店を出した時、「珍味を極める」と大きく入れたペーパーバックを作ったのですが、「再利用されていないのでは?」という話もあり、今は少し小さくしています。営業車とか、名刺とか、会社のCIとして発信していくには、このインパクトが良いのですが、かなり強いメッセージ性があるので、使う場所によっては控え方も考えないといけません。
お客さまから評価をいただけるよう、経営にデザインの力を活かしたい
- 山中さんにとって、デザインとは何ですか?
「お客さんにどう伝えるか」を表現するためには、すごく大事な要素だと思っています。僕は「評価するのはお客さま」という言葉が一番好きなんですが、どれだけ良い商品ができたとしても、お客さんが「こんなんいらん」と言ったら、その商品に価値はないわけで。つまり、おいしくてもそれが伝わらないとだめなんですよね。例えば、どて焼きとか、おいしいんですけど、おいしそうに見せるのがなかなか難しいんですよ。でも、お客さんに評価してもらうためには、商品を並べた時でも、食卓に置いた時でも、おいしそうに見えるかちゃんと考えないといけない。そういうところにもデザインが関わっているなと思っています。
- デザイン経営については、どう思われますか?
デザイナーが経営をするかどうかは別ですが、会社のつくり方にはデザインが必要だなと僕は思っています。例えば、伍魚福の商品を何らかの形でお客さんに覚えてもらわないといけないので、デザインの力を活かしたいと思ってます。ただ、うちは、販路が多岐に渡っているので、乾き物、冷蔵、おみやげもの、いろんなシーンでのお客さん、それぞれに合うデザインにしていく必要がある。でも、伍魚福としての統一性はどうあるべきか、というのが難しい。そういうところでも、経営にデザインを取り入れることは重要だと思っています。今はまだ、試行錯誤の繰り返しですが、伍魚福ならではの良い商品を、良いデザインで仕上げていきたいですね。
- では、最後に山中さんが考える伍魚福の未来について教えてください。
もっと伍魚福のことを、皆さんに知っていただけるようにしたいなと思ってます。お得意先には「伍魚福さんの商品は、高いけどおいしいな」と言ってもらえていますし、それなりのポジションでブランドを認知していただきたい気持ちはあります。そして、将来的には、うちの理念である「すばらしくおいしいものを造り、お客さまに喜ばれる商いをする」「仕事を通じてお互いに共感を持たれる商いをする」「仕事を通じて人格の向上に喜びを感じるようにする」という、この3つを実現できる会社にしていきたいですね。
- ありがとうございました。
従業員にとっても、お客さまにとっても、「おもしろい会社」になれるよう、頻繁に勉強会に足を運び、著名なデザイナーから学んだことを実践しているという山中氏。話の最中には「なかなか思うようにいかないことも多いんです」と苦笑される場面もあったが、現状に満足せず理想に向かって邁進する真摯な姿勢が伺えた。商品が店頭に並んでいる時、スーパーで手に取った時、家の食卓に置いた時、どんなシーンでもおいしそうに見せることとは、つまり、商品とお客さまとのすべての接点をデザインするということだ。試行錯誤の先にある伍魚福の経営に今後も注目したい。
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