日本最大の駐車場予約サービス「akippa」を運営するakippa株式会社。つい先日(2018年11月7日)登録会員数が100万人を突破し急成長を遂げる最中、2018年に入り大規模なリブランディングを実施中だ。ロゴやコーポレートサイトも変え、企業ビジョンも策定した同社は、今どんな未来を描いているのか。デザイン経営という視点から、取締役の松井氏、そしてデザイナーの牧村氏、水谷氏の3名にお話を伺った。
ユーザーの声に耳を傾ける「困りごと解決屋」
-まずは、今注目されている「akippa」というサービスについて教えてください。
松井:akippaは、空いている月極駐車場やマンションの駐車場、コインパーキングなどを、15分から1日単位で予約して、貸し借りすることができるサービスです。一方で、こんな風にお話すると「駐車場シェアリングサービス」と思われがちですが、概念は「困りごと解決」。「何屋さんですか?」と聞かれたら、「困りごと解決屋です」とお伝えしています。
-サービスそのものは一つの手段であって、本質は「困りごとを解決する」というところにあるんですね。どういった経緯で立ち上げられたのでしょうか?
松井:もとは求人広告や携帯電話の代理販売を手掛ける営業会社でした。業績は順調でしたが、日々数字を追いかける中で、だんだんと自分たちの仕事に疑問を感じるようになったんです。「なかなか社会に受け入れられる仕事が出来ない状況で、クレームも多く、何のために仕事をしてるんだろう?」と。
そんな時に、「何のために」を定義した結果生まれたのが「“なくてはならぬ”をつくる」という今のミッションでした。
-そこからすぐに事業転換を?
松井:そうですね。「“なくてはならぬ”をつくる」をミッションと考えた時、当時の既存事業がフィットしていないことに気付いたんです。そこで、新しい事業を考えるため、社員全員で“困っていること”や“不便に感じていること”を200個以上書き出しました。そこから生まれたのが「駐車場は現地に行って初めて満車だとわかるので困る」という困りごとを解決する「akippa」というサービスですね。
-ミッションや原体験から生まれた事業だったんですね。ビジョンとして掲げられている「『あいたい』をモビリティでつなぐ。」という言葉も、ユーザー体験をデザインするという点で素晴らしいですね。
松井:ユーザー体験という点では、社長の金谷がよくおばあちゃんの話をしていますね。地方に住むおばあちゃんが、「移動」の問題で、会いたい人に会えなくなっている、楽しみにしていた買い物に行けなくなっている、と。akippaは、そんな課題に対して「人と人が会う」「人が体験に出会う」きっかけを作ることが出来ると感じています。
実際にユーザーさんのレビューでも 「(akippaを使い、近くの駐車場に車が停められるようになったことで)足の悪い両親を、孫の学園祭に連れてくることができました。」 という嬉しいエピソードが聴けたり。そういったユーザー体験が提供できていることは、僕自身も誇りに思っていますね。
-akippaでは駐車場を借りるユーザーさんや、駐車場を貸すオーナーさんとの関わりも大切にされているんですね。
松井:はい。ユーザーさんやオーナーさんのためのオウンドメディア「アキチャン-akippa channel-」を運営したり、「akippa meet up!」と題してユーザーさんやオーナーさんから直接ご意見をいただけるオフ会を開催したり。そこでいただいたご意見を、サービス改善に繋げられるよう、社内でも参考にさせていただいています。
一貫した企業メッセージを発信し、さらなる飛躍を目指すリブランディング
-今年に入り、大規模なリブランディングを実施中とお伺いしているのですが、その理由や狙いは何でしょうか?
水谷:今後、事業をよりスケールさせていく上で、一貫したテーマやクリエイティブが重要になってくるのですが、以前はそういったものが全くなかったんです。そこで、リブランディングをしようという話になり、社内での意見収集や過去のデータ分析、キーワード出し、ペルソナの作成などを実施しました。そこからブランド・プロポジションを再定義したので、今はそれをあらゆるクリエイティブに落としている最中、という感じですね。
-なるほど。ちなみにリブランディングでは、先ほどのブランド・プロポジションの再定義のほか、どんなことをされたんですか?
水谷:ロゴやコーポレートサイトのリニューアル、akippaのサービスサイトのリニューアルや、「『あいたい』をモビリティでつなぐ。」というビジョンも今回のリブランディングで策定しています。
-デザインにおけるこだわりはありますか?
水谷:細かな点ではたくさんあるのですが、大きくはakippaというサービス全体から、明るいイメージを感じてもらえるデザインにしたいと考えています。akippaを使うことで得られる体験って明るいものなので、ユーザーさんには「何かをしたい」「どこかに行きたい」という明るい気持ちで使っていただき、使うことでより楽しくなるような。そのためにカラーやインタラクションなど、細部までこだわっていますね。
牧村:ほかにも、今回のリブランディングで再定義したブランド・プロポジション「PARK UP」には「元気にさせる」という意味が含まれているのですが、特にサービスサイトのトップページでは、そういったところが全面に感じられるようデザインしています。これまでは素材サイトからピックアップした写真を使っていたところを、今回は一から撮影してみたり。よりakippaが使われるシーンをイメージ出来るようにしています。
-3名ともミッションやビジョンに対する意識が強く、素晴らしいと感じるのですが、そういった想いやデザインを拡めていくために、組織として意識されていることはありますか?
松井:弊社では「ビジョン経営」というものを導入し、ミッションとビジョン、それを体現するための行動指針をバリューとして設定しています。そして、それらを社内に浸透させるために様々な取り組みがあるんです。例えば、この(取材を実施している)会議室の名前をバリューの一つ「Win by Team(チームで最高のパフォーマンスをしよう)」にしていたり。この(取材時に松井氏が着用している)パーカーもノベルティとして作ったもので、背中に「PARK UP」と書かれていたり(笑)
特筆すべきは評価制度でしょうか。「バリューに沿った行動が出来ているか」といった項目を設けていますね。経営という点で言えば、大きな意思決定や新しい企画を実行する際に、経営陣で「バリューに沿った判断が出来ているか」をチェックするようにもしています。
-なるほど。最近ではデザイナーさんも事業の構想段階から参画されるケースが増えてきていますが、貴社の場合はどうですか?
松井:正直なところ、デザイナーさんとの距離はまだまだ遠いなと感じています。デザインという仕事の中には「想いを具現化する」ということも含まれると思っています。そう捉えると、経営層とデザイナーの信頼関係ってすごく重要ですよね。今後、アウトプットの質や量を増やすためにも、事業の早い段階でデザイナーさんに入ってもらえるような組織体制にしていきたいと考えています。
水谷:とはいえ少しずつ変化してきている部分もあるんです。もとは依頼ベースだったデザインが、相談チャットのようなものを作り、早い段階で気軽に相談できるようになっていたり。
牧村:私たちとしても、決まったことが下りてくるような業務フローではなく、もっと前の段階から入って一緒に話が出来ればと思っています。欲しいと言われる前に提案できるような。そのほうが結果的に良いものが出来るとも思いますね。
予祝思考で、社会にとって“なくてはならぬ”ものをデザイン
-ここ最近「経営にデザインを」という考え方が叫ばれていますが、どう思われますか?
松井:個人的にはすごく好意的ですね。経営って結構定量的に数値で判断されがちですが、それだけでは良くないと思っているので。特に前例や実績がない時って理想像から掘り下げていくことが大事だと考えています。僕も金谷も結構そういう体質なんですよね。妄想癖というか(笑)
ところで「予祝(ヨシュク)」っていう言葉はご存知ですか?
-「予祝(ヨシュク)」ですか? 初めて聞きました。どういう意味ですか?
松井:予定の「予」に「祝う」って書くんですけど。要は先に祝っちゃうんですよ(笑)日本のカルチャーで、その年の豊作を先に祝うお祭りのような習慣があるらしいんです。これってすごく重要で、弊社でもプロジェクトのキックオフなどでは良いゴールイメージの話をした上で乾杯するような感覚で実践しています。
計画的にやると、成長率って良くて120%くらいなんですが、予祝思考だとその2倍~3倍だったり、もっと本質的なところに気付けたりもするんです。そういった点でも経営とデザインは相性が良いというか。事業をする上では必要なことだと思っています。
-予祝思考、おもしろい考え方ですね! みなさんにとって「デザイン」とはどんなものでしょう?
松井:僕の中では、相手に対する思いやりやホスピタリティのようなものかなと思っています。何かを相手に伝える時、その人のテンションを上げるのも、また、理解してもらうための時間を短縮するのもデザイン次第だと思うので。どれだけ相手の視点に立ち、そのニーズに応えることが出来るのか。楽しいものだと思うんですよね、デザインって。僕もデザインやりたいですもん(笑)
牧村:やっぱり弊社のようなサービスを持っている企業では、デザインってユーザーさんが初めて目に触れるところだと思うんです。サービスの印象やその後の体験を左右すると考えると、重要だと感じますし、そういった部分に携われることは、私自身のやりがいでもあります。
水谷:仕事に対する姿勢でいうと、僕はただ良いものを作りたいっていう気持ちだけなんです。良いものって何かというと、それを創っている僕たちが誇れるもの。そして、自然と使う人の普段の生活に組み込まれるようなものだと考えています。それがひいては“なくてはならぬ”ものだと思いますし、そういったものを作っていきたいですね。
-最後に、今後の事業展開について教えてください。
松井:これまで事業を進めてきた中で、生きたデータがたくさん溜まってきているんですが、今後はそれを活かして違った事業ドメインでも展開していきたいと考えています。冒頭でもお話したように、akippaは手段の一つでしかなくて、その本質は困りごとを解決すること。使う人にとって、“なくてはならぬ”ものを創っていきたいと思いますね。
とはいえ、市場を独占したいとか、そういった支配的なイメージは全く考えていません。温度感のあるサービスで、ユーザーさんもつい応援したくなる。応援するとまた使い勝手が良くなる。そんな風にユーザーさんやオーナーさんとの距離感を大切にしつつ、共創しながらサービスを創っていく構図を描いています。
-ありがとうございました。
取材の最後、松井氏に自身の未来像を聞くと「選択肢の1つにお笑い。NSCに行きたい(笑)」という答えが返ってきた。人を知るため、人にとって“なくてはならぬ”ものを考えた時、“笑い”という結論に至ったそうだ。初めは予想外の答えに驚いたものの、非常に本質をついた、akippaらしい考え方だと感じた。会社が目指すミッションやビジョンを明確にし、人の欲求を的確に捉えて理想を描き続ける姿は、まさにデザイン経営ではないだろうか。リブランディングでさらなる飛躍を目指すakippaの、今後の活躍に注目したい。
(写真左から、デザイナー 牧村恵氏、取締役 松井建吾氏、デザイナー水谷遼氏)
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