【インタビュー】目指すは、大阪のテッパン土産。7代目が挑んだ新しい「おこし」の形。

大阪で213年続く、老舗菓子メーカーあみだ池大黒。大阪名物おこしを中心に、和菓子や洋菓子も販売している。2011年以降、それまでのイメージを覆すようなデザインで「pon pon Ja pon」「Matthew&Chris.P」と立て続けに新ブランドを立ち上げ話題に。老舗菓子メーカーが新ブランドを手掛けた背景にはどのよう想いがあったのか、社長の小林氏にお話を伺った。



30歳前後の女性をターゲットに、顧客目線を徹底してつくった新ブランド


- 新ブランド「pon pon Ja pon」「Matthew&Chris.P」について教えてください。


 「pon pon Ja pon」(上記の写真)は、2011年3月発売された新ブランドです。新しいお客様の獲得をすべく、30代前後の独身女性をタ-ゲットに、今までの岩おこしや粟おこしとは違った「新しいお米のスイ-ツ」としてつくりました。一方の「Matthew&Chris.P」は、岩おこしに対していただいた「固い」というご意見をきっかけにつくった、柔らかいおこしです。弊社の社員がアメリカに行き出会ったお菓子を参考に、岩おこしの原料である水飴をマシュマロに変えてつくっています。 


- 「pon pon Ja pon」や「Matthew&Chris.P」を、 従来のあみだ池大黒からではなく、新ブランドとして立ち上げたのは、何か理由があるのでしょうか? 


弊社は長年「あみだ池大黒」というブランドで、岩おこしや粟おこしといった昔ながらのおこしを販売してきました。近年は、高齢化により固いおこしの需要は減り、新しいお客様を獲得する必要が出てくる一方で、創業当初からつくり続けてきた岩おこしに対するお客様の期待にも応えたい、と考えていました。例えば、自分が子供の頃に食べた味や、デザインの懐かしさもそうですし、昔を思い出し、楽しんでくださるお客様もいらっしゃいます。そのように、長く親しまれている味を変えたくないという想いもあり、あみだ池大黒とは別で「pon pon Ja pon」や「Matthew&Chris.P」といった新ブランドを立ち上げました。 


- そんな経緯があったんですね。特に「pon pon Ja pon」は、カラフルでとても可愛らしい見た目も印象的ですが、デザイン面でこだわりはありますか? 


タ-ゲット層に向けて忠実につくりたいという想いから、顧客視点を意識した商品企画やデザインを行っています。印象的だったのは、商品のネ-ミングやデザインを決めた時のことでしょうか。複数案が挙がる中、当初、私自身が良いと選んだものと、弊社の女性社員が選んだものが全く違っていたんです。個人的には、自分が良いと思う商品をつくりたい気持ちがある一方、タ-ゲット層に近い女性社員や、家族から聞いた意見を尊重すべきとも考え、最終的には後者を商品化しました。父(当時の社長)は新商品を出すことに対して最後まで心配をしていましたが(笑)結果、世間の方々に受け入れていただけたということからも、顧客視点で企画やデザインをすることの重要性に気付かされました。 


- あの素敵なデザインの背景には、徹底した顧客視点があったんですね。


そうですね。顧客視点でのこだわりとしては、商品のネ-ミングもそうです。お客様に、商品選びの際も楽しんでほしいとの想いから、「きゅんきゅんいちごミルク」や「うきうきドライフル-ツ」といったワクワクするような商品名にしています。

そんな風にこだわってつくった新ブランドに対し、以前から弊社のおこしをご支持いただいていたファンの方々から「おこしがこんなに可愛く生まれ変わった」と喜んでいただけた時は、非常に有り難かったです。創業時から先祖代々守り続けてきた歴史を基盤に、多数の店舗を展開する大阪という地に支えられてここまで成長できたのだと、強く実感しています。 



表層的なデザインでは売れない時代、緻密な経営戦略が重要になる


- 「Matthew&Chris.P」立ち上げの際は、商品開発ができる組織をつくることを意識されたと伺いました。その理由を教えてください。  


従業員一人ひとりが、良いと思うものを自分でつくり、自分で売るという姿勢を大事にしてほしかったからです。12年前は企画室がありましたが、現在はそれを廃止し、営業が商品を企画するようにしています。当初、既存の商品を売るだけだった営業は、戸惑った様子を見せていましたが、今では営業が商品をつくるという前提で採用もしています。

ひとりが商品を考えるより営業全員で考えたほうが可能性も拡がりますし、考えた本人が取引先と直接話をすることで、その場をスム-ズに進めることもできます。 また、それを形にしていく上では、デザイナ-も非常に重要です。タ-ゲットに対して、いかにワクワクするものを提供できるか、それを考える力を求めていますね。そういった点では、営業もデザイナ-も共に考え、協力し合う必要があると思っています。

- 先ほどデザイナ-という言葉が出ましたが、近年注目されている「デザイン経営」については、どう思われますか?

私自身、まだまだ勉強不足ではあるのですが、「デザイン経営」という言葉は、経営戦略のことを指しているように思います。経営戦略では緻密な戦略部分が重要です。今の時代、表層的なデザインのみで、モノが売れるというわけではありません。あくまで経営戦略があり、タ-ゲットやニ-ズを、より詳しく思い描きながら戦略を練ることが重要になるのだと思います。


- では、あみだ池大黒では、今後、どのような事業展開をお考えですか?

これからもお客様のニ-ズに合わせて商品を企画、展開していきたいと考えています。顧客ニ-ズに合わせた販路の拡大という点で言えば、いくつかの仮説も持っていて。例えば、梅田だけでも百貨店は3つありますよね。百貨店自体の客層は違うので、互いに共存できるのではないか。また、各々の店舗でも客層が違うため、いずれも梅田にあるものの同じ商品を並べるのは違うんじゃないか、といった感じです。取引先や販売場所によってお客様は違うので、もちろんニ-ズも違います。今後の展開としては、販売経路に合わせてお客様のニ-ズを的確に捉え、商品を開発していきたいと思っています。 



「大阪のテッパン土産をつくること」が7代目としての挑戦


- 未来のあみだ池大黒の理想について教えてください。


弊社の商品が大阪のテッパン土産になること。そして、大阪に訪れた観光客の方々に「あみだ池大黒のおみやげだったら間違いないよね」と思っていただくことです。 しかし、あくまでこれは私の在任期間中の理想です。老舗は変わり続けないといけない。未来永劫、テッパン土産をつくることを理想として掲げ続けるのではなく、その時々で時代のニ-ズを捉え、新たな目標に向かって挑戦し続けてほしいと思っています。 


- なるほど。「大阪のテッパン土産」というコンセプトは、小林さんがご自身で掲げられた挑戦なんですね。


はい。あみだ池大黒は、時代に合わせて常に新しいことに挑戦する会社です。「大阪のテッパン土産」というのは、私が在任期間中のコンセプトとして設けました。大阪といえば、岩おこしと言われていた時期もありましたが、新しく大阪のお土産のテッパンとなるものを生み出すことが必要だと思いました。そこで、私なりに新しいことを表現したのが、「pon pon Ja pon」や「Matthew&Chris.P」でした。意気込みとしては、あみだ池大黒という社名を表に出さず、この商品一本で市場に受け入れられるのか、今まで培った技術でどこまでいけるのかを確かめたいという気持ちでした。 


- 最後に、小林さんがあみだ池大黒でこれからも守っていきたいと思われていることを教えてください。 


岩おこしをつくり続けること。そして、時代が変わってもお客様に同じように喜んでもらえること。「昔もおいしかったし今もおいしいよね」と感動を与えることは、ずっと変わらず実現させたいと思います。 


- ありがとうございました。





あみだ池大黒の企業サイトには、「暖簾は絶えず創り直していくもの、暖簾にあぐらをかくことなく、日々新た」と記されていた。昨今、時代の変化はめまぐるしく、経営においても絶えず人々のニ-ズを捉える力が求められている。老舗も、あみだ池大黒のように、時代に挑戦していくことが必要になるだろう。小林氏の挑戦は、新ブランドをデザインしたことによって始まった。未来を想像し、どんな人に、どんなものを提供したいのか思い描く時には、デザインの力がきっと活用できるはずだ。  



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