【インタビュー】デザインは経営の全て。ものづくりの楽しさから生まれた、家事を楽しくする洗剤。



大正13年創業の老舗企業、木村石鹸。OEMが中心だった商品展開から一転し、デザイン性の高い天然素材の洗剤ブランドを数多く立ち上げている。自社ブランドや商品づくりに込めた想いとは何か、4代目社長木村氏に詳しい話を伺った。




毎日使うものだから、家に置きたくなる洗剤を



-まずは、木村石鹸の自社ブランドができた経緯を教えてください。


木村石鹸のメイン事業は生協関連のOEM商品の開発・製造です。生協は品質基準がとても厳しいんです。弊社では、20年以上その厳しい基準をクリアしてきたので、開発する洗剤の品質には自信を持っていました。 しかし、OEMだけを続けると取引先への依存度が高くなるので、経営的なリスクを抱えてしまいます。

このままでは会社の成長が難しいと感じ、新しい事業として自社ブランドを立ち上げることにしました。 


-もともとはOEMがメインだったんですね。どうやってブランドイメージを考えたんですか?  


初めはドラッグストア向けの企画もしましたが、大手メーカーさんと同じ市場では価格や知名度で太刀打ちできませんでした。結果行き着いたのは、これまで洗剤を販売していなかったインテリアや雑貨を扱っている店舗さんでした。

元々強みとして持っていた安心安全の品質を、きちんと説明し理解してもらえる新しい販路を狙って自社ブランドを設計しなおしました。


-洗剤は派手なパッケージが多いイメージですが、なぜこのようなデザインになったのでしょうか。


ドラッグストアやホームセンターなどで売られている一般的な洗剤は、売場でいかに目立ってひと目で性能が理解できるかという点に注力していることが多く、どれも蛍光色のボトルに除菌〇%とか強力〇〇といったコピーを強調したデザインになっています。

一方で、開発当時ブランドを考える上でInstagramやブログなどを見ていましたが、お洒落な写真にはそういった一般的な洗剤が全然写っていないんです。あってもラベルを剥がしていたり、容器を入れ替えてありました。 普通の人はそんな手間を加えず、そのままでは生活臭がするので、写真を撮る時には洗剤を隠してしまうんですね。

すごく身近で毎日のように使う洗剤だから、自分の家に置きたくなるようなデザインにしました。 



商品づくりから職場づくりまで、「楽しむ」を起点に



-木村石鹸さんの商品には「家事を遊びに、遊びを家事に」というコンセプトがあるそうですが、なぜこのような発想に至ったのでしょうか?


家事、特に掃除ってもともとやりたくないじゃないですか。 だから業界的には、なるべく短時間で掃除できたり、洗浄力を強化して掃除の回数を減らす方向に開発が進んでいたんですね。でも、家事は毎日やることだから、毎日楽しんでもらえるようにできないのかと考えました。

安心安全な洗剤はそれほど強い洗浄力はありません。その分、毎日肌に触れても、口に入っても支障のないようにできています。時短や回数を減らす方向ではなく、毎日掃除をしてもらために愛着や楽しさを感じられる「家事を遊びに、遊びを家事に」というコンセプトが会社のキャラクターにピッタリ当てはまりました。


-確かに、独自の体験を提案していますね。ブランドは全て木村さんが立ち上げられているのですか?


一番初めの『SOMALI』は僕が開発しましたが、最近は関与していません。商品が発売されてから知ることも多いです(笑)。キャラクターの違うブランドはいくつ立ち上げてもいいと思っているので、今は社員に任せ、積極的に商品を作ってもらっています。


-社員の方に開発を任せられているんですね。


これまでは作る前から、失敗したらどうしようとか、売れなかったらどうしようとか、商品を作ることにハードルがありました。でも、そのままでは新しいブランドは生まれてこないので、その敷居を下げたかったんです。

もともと、ものづくりって楽しいじゃないですが。だから作りたいと思うものにチャレンジできるような環境作りを行いました。企画書の承認フローや煩わしい手続きを全てなくし、社員たちが「面白い」「作りたい」と思うものを自由に作れるようにしました。そのお陰で、昔はOEMも合わせて年間10商品しか開発していなかったのですが、ここ2年間は毎年50商品以上作っているんです。

経営的には良い面も悪い面もありますが、今は沢山開発して、社員の作る熱量を上げたいと思っています。


-商品コンセプトの「楽しむ」は、働く環境づくりにも繋がっているのですね。


2019年5月にオープン予定なんですが、三重県の伊賀に IGA STUDIO PROJECT という工場を作っています。そこは「楽しいを作る工場」というコンセプトで、一般の方にも公開し、ものづくりの現場を見学したり、ワークショップに参加したり、ものづくりに関わる体験を提供する工場にしたいと思っています。


-モノからコトにつながる体験のデザインですね。オープンが楽しみです。木村さんは会社の未来をどうしていきたいとお考えですか?


「木村石鹸」と言う名に縛られて欲しくないと思っています。こうあるべき、とかは決めずに、人が有機的にやりたいことを広げて、みんなが楽しそうに働いてほしいです。

月曜日に会社に来るのが嫌ってよく言うじゃないですか。これを一番変えたいです。月曜日が楽しみになるような会社にしたい。サークルで文化祭の準備をする時みたいに、しんどいけど楽しい、楽しいから用がなくても集まる、そんな風に働ける環境を作っていきたいです。 



経営者=デザイナーくらいじゃないとダメ



-木村さんはデザイン経営をどのように考えられていますか?


すごい重要ですね。デザイン経営という考え方を知らない人に「デザイン」と言うと、狭義の意味でのデザインをイメージされてしまいますが、広義の意味ではデザインが全てじゃないですかね。

ドラッカーが、経営に必要なものはマーケティングとイノベーション、と言っていますが、デザインはその両方を包括した視点だと思います。顧客体験から考え、サービスを組み立て、組織の在り方やものづくりのフロー設計も、全ては顧客をもとに考えています。これはもうデザインだと思うんです。そういう意味では、デザイン経営は、経営としては当たり前といえば当たり前だと思います。


-経営者とデザイナーの関係はどのようにあるべきでしょうか?


経営者=デザイナーくらいじゃないとダメだと思っています。

デザインは、言葉一つやコンセプト一つで、会社のイメージやビジネスをガラッと変える力を持っています。単に絵を描くとかパッケージを作るような狭いデザイナーさんではなく、ビジネスや会社の在り方を示してくれるコンサルタントに近いデザイナーさんと仕事をできればと思います。


-ありがとうございました。 




ユーザー体験から組織づくりまで「楽しむ」という一貫した想いから、木村石鹸の素晴らしいブランドが出来上がっている。経営者にデザイン思考を、デザイナーにビジネス視点を。木村氏が肌で感じている経営者とデザイナーとの関係性は、まさに今これからのデザイン経営の目指すべき姿だろう。


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