京都で、お米のトータルプロデュース事業を展開する八代目儀兵衛(はちだいめぎへえ)。産地や銘柄でお米を選ぶのではなく、その年その季節に合わせ「美味しい」と感じられるお米を提供するお米ギフトをはじめ、京都祇園・東京銀座で「米料亭」の運営、イベントの開催、食育事業など、事業内容は多岐にわたる。「お米のデザインカンパニー」と掲げ、お米に新しい価値を持たせる橋本氏に、「デザイン」という視点から、詳しいお話を伺った。
産地銘柄ではない、「美味しさ」の証明
- 「世界を感動させる、お米のデザインカンパニー」として、お米のギフト事業など注目されていますが、八代目儀兵衛の強みについて教えてください。
強みと言われればたくさんあるんですけど、大きくは三つですかね。
一つ目は、「全国のお米を目利きできること」。お米は工業機械製品ではないので、天候に左右される部分もありますし、今年みたいに酷暑や台風なんかがあると、食味的に美味しくないこともあります。なので、お米を産地や銘柄で選び、美味しくない年もいつも扱っているからという理由で販売することに疑問がありました。なので、産地や銘柄に頼らず、その年のお米から自分たちで良いものを吟味して販売しています。
二つ目は、「お米の精米技術」。仕入れに関しては、僕らもスーパーに卸しているお米と同じ原料のものを仕入れていることがあります。でも、精米技術でお米の美味しさって変わるんですよ。お米を精米する時に摩擦で温度が上がりすぎることで、お米の美味しさが損なわれていることを発見したんです。そこに着眼して精米を追求した結果、一般の精米に比べて10度も「低温精米」できる方法を見つけました。非常に時間はかかるんですが、その方が美味しいのならばそうすべきだと思い、八代目儀兵衛ではそのやり方を遵守しています。
そして、三つ目が、「ブレンド米」です。今、ブレンド米をブランド米という位置づけにしようとしているんです。従来、お米に対する「ブレンド」って、水増しや、混ぜもののイメージがあって、「美味しくない」とか「値段が安くなる」という先入観があります。でも僕らは、「お米を美味しくするためのブレンド」を実践しているんです。
- 「美味しくするためのブレンド」とは?
シングルオリジンの味の部分をきちっと理解したうえで、美味しいものを掛け合わせ、より相乗効果が出るようにしています。例えるなら、ワインやシャンパン。有名なワインは、ほとんどブレンドされているんですよ。自分たちの味に、きちっと目標値みたいなものがあって、それに近づけるためにはどうすべきか、毎年試行錯誤されているんです。お米も、シングルオリジンだと天候などで味が変わってしまいます。だからこそ、そのブレをなくしたり、目標値に近づけるためにブレンドしている。そういう意味では、ブレンド技術が一番の強みかもしれません。
- 聞いているだけで、美味しいお米が食べてみたくなりました(笑)。
そうでしょ(笑)。でも、「お米ってどういうもの?」って聞いた時、最近の人たちは「糖質」って言うんですよ。ダイエット志向が高まって「糖質制限ダイエット」や「置き換えダイエット」などが注目されたことも原因ですが、お米をそういった機能性の部分じゃなく、「味わう」、「楽しむもの」として拡げるために、ブレンド米があると思うんです。だから僕たちがお米の多様性や可能性を拡めていかないといけない。僕の中ではお米のブレンドもデザインだと思っているんです。自分たちがデザインしたものはそのまま企業の評価になりますし、僕は美味しいものは産地や銘柄ではないってことを証明したいですね。
イノベーティブな事業は数字で語れない
- 「世界を感動させる、お米のデザインカンパニー」という企業理念には、「デザイン」という言葉がありますが、どのような思いが込められているのでしょうか?
「ビジネス」を「デザイン」という言葉に置き換えている感じですね。新しい事業をつくるということもデザインだし、ビジネスモデルを考えていることもデザイン。デザインには、他との差別化をする力がありますよね。僕自身が、人とは違うことに価値を感じる性格ということもありますが、事業においても、誰もやったことがないような新しいことに挑戦したいと思っています。とはいえ、似たような商品や企業もすぐ出てくる。だからこそデザインの力が重要ですし、常に自分たちはイノベーティブなことを考え続けなければいけないなと思っています。
- 橋本さんはデザイン経営についてどう思われますか?
経営にデザイン思考は絶対必要だし、そもそもイノベーティブな事業は数字では語れないと思っています。事業とマネージメントは根本的に違うんですよ。僕はいろんな事業をやりたいけど、マネージメントはやりたくない。数字で管理をすることは、デザイン思考ではないと思っています。かといって、デザイナーが自己満足でつくった美しいもの、きれいなものも、デザイン思考ではないですよね。事業においてのデザインは、世の中の人に共感してもらえること、受け取る人に「良いね」って思ってもらえることを派生させていく必要があると思っています。
だから、僕らもビジネスをデザインしている。ビジネスなので、最終的にはお金を儲けることに繋がるのですが、その過程で人にどんな理由で買ってもらい、どんな風に喜んでもらい、どう収益を上げられるのかを描くことが重要だと思っています。デザイン経営の実践企業としてもよく名前が挙がるAppleの言葉に「Think different.」とありますが、僕も発想を変えて、新しい価値や共感を生み出していきたいですね。
- 八代目儀兵衛のお米ギフトも発想を変えて取り組まれたと拝見しました。
そうですね。お米を「贈り物」と捉え直したことで可能性が拡がりました。僕たちのお米の価値をわかってもらうためには、日常よりも非日常の方が良いと思って、ブライダル業界に引き出物にしてもらおうと営業をしたんです。ただ、結婚式場ってハードルが高くてその時は受け入れてもらえなかったんですよ。なので、ゼクシィに出稿するなどして、直接弊社のWebサイトに来てもらえるようにしました。そしたら、「引き出物は式場で決まっているけど、結婚内祝いとして使えないか」という問い合わせが多くなり、さらには「出産内祝い」へと拡がっていきました。
「ブレンド米」と伝えるだけだと認知をしてもらえなかったんですが、「お米ギフト」と言って風呂敷で包むことで、お米の素晴らしさを知っていただくことができ、結果として我々がやっているブレンド米を認知していただくことに繋がりました。あとは、ミシュランのお店や、うちの飲食事業である「米料亭 八代目儀兵衛」というお店で「ブレンド米」を提供することで美味しさを伝えていったりとか、伝え方を幅広く持ち、より世間に拡がるように考えています。
お米の「価値」を、京都から世界へ響かせる
- 八代目儀兵衛は未来に対して、どのような事業展開をお考えですか?
もともと僕自身は、「日本の米文化を世界に発信する」ことを目標に掲げています。それはつまり、「京都から世界に向けて」発信するということです。正直、京都が一番世界に対して「文化」を発信する土地として通用すると思っていて。弊社のような企業が発信する情報に対して、日本人以上に海外の人たちが敏感なんですよ。
実は、韓国の企業と一緒に作ったお米を使ったオーガニック系商品の「米一途(こめいっと)」というブランドが、来年の3月から発売されます。弊社の扱うお米の品質を非常に高く評価いただき「日本のお米を使った化粧品を作りたいから協力してほしい」とオファーをいただきました。このように、世界ではお米が盛り上がってきているので、日本でもお米の多様性や価値を理解いただけたら嬉しいですね。
- 既に、アジアでは認知度が高いんですね。
そうですね。今後は中国でも「八代目儀兵衛」というブランドを拡げていきたいと思っています。中国って今、お米事業を国を挙げて国家事業にしようとしているんですよ。そこで有り難いことに「八代目儀兵衛」というブランドに興味を持っていただき「御社のビジネスモデルを、中国米で展開してほしい」と依頼を受けたこともありました。中国米に対しての目利きは自分が知るお米と全く違うためお断りしたのですが、そこで中国で日本のお米づくりをできないかと考えました。
- なぜ、 中国でお米づくりを?
輸入よりも提供する価格が適正になれば、多くの方に食べていただけるのではないかという気持ちもあったんですが、日本で作るお米と同じクオリティのものを世界で作ることが出来たら、最終的に「made in japan」のお米が世界で高く評価されるんじゃないかと考えていて。そんな想いから、中国でも八代目儀兵衛の美味しさを提供できるようなお米づくりをしようしています。どんな時も、「美味しさ」を求めることが僕の中でのデザインです。お米の良さもそうですが、文化的なことは時間をかけて拡がっていくものなので、海外の方が「美味しい」と思えるものをまず拡めることから始めないとと思っています。
- お話を伺っていると、お米への想いの強さを感じます。世の中にお米の価値がしっかりと届く形を模索していらっしゃるんですね。
「きっちりと目利きしたお米を、美味しい状態で提供し、お客様に美味しいと思っていただけること」がミッションだと思っているので、それに到達するまでのプロセスを事業としてつくっているという認識です。
今の世の中、お米は「価値あるもの」ではなく「糖質」というイメージがあり、お米の価値は、まだまだこれから下がっていくと思っています。だからこそ、お米に対してもっとポジティブなイメージを持っていただきたいですし、世の中に響かせていきたい。
それに、僕の想いが事業の形になっているんでね。価値のあることをやっているけど、世の中に価値があると思われないことが一番残念なことです。もしそうなったなら、価値に対する発信の仕方が間違っているのかもしれない。だったら、もっと世の中の人たちに喜んでもらえることを、僕はまた新しく想像していかなあかんのかなと思います。
- ありがとうございました。
日本人にとって、お米は一番身近な食べ物と言える。それ故、変化を求めてこなかったのかもしれない。そんな中、八代目儀兵衛は、お米を産地銘柄で選ぶという常識を覆し、ブレンド米として新たなお米の「美味しさ」を生み出した。さらに、お米を「贈り物」という特別な価値を持つものに変えた。この先には何が起きるのか。新しいお米の価値を創造する橋本氏が、お米業界で起こすイノベーションが楽しみだ。
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