【インタビュー】女性のライフスタイルはもっと輝く、社会と子育てをつなぐ授乳服


「子育ては“我がまま”でいい」というコンセプトを掲げ、女性が自分らしく輝くための製品づくりをしているモーハウス。肌を見せずに授乳できる授乳服や、授乳用ブラなどを企画・販売。また、同社が実施している「子連れ出勤」には、様々なメディアが注目した。そんなモーハウスが描く女性のライフスタイルの理想像とはどのようなものなのか。代表の光畑氏にデザインという切り口からお話を伺った。



授乳服で、女性の子育てを自由にする


- 光畑さんが、肌を見せずに授乳できる授乳服を作り始めたきっかけを教えてください。


自身の子育ての経験からです。生後1ヶ月の赤ん坊を連れて電車に乗った時に、お腹を空かせて泣き出してしまったことがありました。あやしたり、だっこしたり、いろんな方法を試したものの泣き止まず、最終的に授乳をするしかなかったんです。通勤電車で赤ん坊が泣いていますから、すでに注目を浴びてしまっていますし、そんな中で胸をはだけて授乳をするのは、非常に難しいなと感じました。その頃、複数の友人からも、「電車に乗って子どもと外に出かけることに躊躇いがある」という話を聞くことが多かったのですが、その理由のひとつがわかったような気持ちになりました。

でも、子どもができた途端に、今までと違う自分にならないといけないことが不思議で、「これって解決できないのかな」と。そこで、自分で解決できる手段であり、お母さんたちにもそれぞれに手が届くような方法ということで、授乳服を作り始めました。 


- 授乳服を作って変わったことはありましたか?


思っていたより、自分が我慢していたことに気がつきましたね。そして、「この服があれば、自分はどこにでも行けるし、なんでもできる」と社会との繋がりに対して自信を取り戻せたような気がしました。私はわりと自由に動いていたつもりでしたが、「子どもが大きくなるまで美術館行くのは我慢かな」とか「旅行はもう少し大きくなってからかな」とか、友達と会うにしてもカフェじゃなくて自宅か児童館とか、どこか制限を感じていたんだと思います。でも、それが全部なくなりました。


- すごい変化ですね。肌を出さずに授乳ができることは、それだけお母さんたちにとって大きいことなんですね。


そうですね。私が考える授乳服は、「社会と子育てを繋ぐ道具」なので、要は、社会の中で、どこで使っても違和感があってはいけないと思っているんですよ。それは胸が見えることであったり、子どもが泣くことであったり、あるいは大きく布を覆いかぶせて、そこで何が起きているのか想像できるものでもいけないと思っています。だから授乳していることがばれたら負けぐらいに思っていますね(笑)。

授乳しているとわかった時点で周りが気を遣うじゃないですか。男性はもちろんですが、女性も、お子さんを持たない選択をされた方だったり、子どもに対して複雑な感情を持っている方もいらっしゃるので、いろんな立場の人たちに意識をさせたくないんです。少なくとも今の時代では、一番良い選択肢は、誰にも気づかれないデザインなのかなと。なので私たちの会社では、胸もお腹も見えなくて自然に授乳ができる、しかも赤ちゃんが泣かないように欲しがったら1秒であげられる授乳服を目指しています。



女性の働き方に、もっと多様な選択肢を


- モーハウスは「子連れ出勤」でもメディアに注目されていますよね。どのように始まったんですか?


授乳服を作る会社ということもあり、子育て中のママスタッフが多く、「子連れ出勤」は自然に始めて、いつのまにか当たり前になっていました。そうした中で、15年くらい前から、そういう働き方も含めてメディアから取材を受けるようになりました。

ある時、日経新聞の記者の方が一日かけて取材をしてくれて思ったんですが、これが全国版になるだけのニュースバリューがあるとしたら、こういう働き方の選択肢を一般の人たちが知らないということなのかなと。であれば、それを発信することで、価値観が変わったり、生活が変わったり、子育てに対する考え方が変わったりする人がいるはずだと思いました。そこから、意識的に続けていこうとなり、今に至ります。 


- 「子連れ出勤」という取り組みからも、女性の働き方の固定概念を変えようとされているんですね。


子どもができたら、保育園に入れないからとか、母乳をもうちょっとあげたいからとか、働きたいけど会社を辞めてしまうという選択をするお母さんは多いです。なので、少しでも多くの方に、「子育てに専念するのか」「仕事に専念するのか」だけでない選択肢が生まれれば、と思っています。でも、「子連れ出勤」という働き方は、あくまで子育ての選択肢のうちのひとつで、極北だと思っています。一番端を見せれば、その間の可能性が見えるのではないかと考えています。

今は、少しずつ行政の方と組んで、実験的にその働き方を取り入れる活動を進めています。働き方の多様化が進んで、実際に「子連れ出勤」を他の企業や組織に取り入れた方が企業も助かったり、お母さんにとっても良い学びになるのではと思って、こちらからもアドバイスに行ったり、社内全体の研修や、マニュアルを作ったりしています。これにより、多くの女性が赤ちゃんを生んでも働くことができて、それを見た人たちに「子育てしやすいな」という雰囲気を感じてほしい。そんな風に「社会の循環」を感じていただければ良いですね。 


- では、光畑さんは、女性の働き方やライフスタイルについての理想像についてどのように思われますか?


やはり、選択肢が増えてほしいというのはひとつあります。どんな選択肢でも認められて、自分で選んでいける環境が一番良いですよね。今は選択肢が増えているようで、やはり縛られているところが多いんだと思います。特に子育てを取り巻く環境に関しては、本質が見えなくなってしまっているところがすごくあると思うんですね。例えば、肌を見せないようにするため赤ちゃんごと布で覆いかぶせて授乳することは、普通に考えれば「赤ちゃんは苦しくないのかな」とか「かえって授乳が目立ってしまわないかな」と思うのに、当たり前に受け入れられてしまっていることとか。ちゃんと本質を知っていくことで、妙なバイアスがかからず、自由に選べる状態になり、みんなが楽に楽しく生きられるようになれるんじゃないかと思います。


- そういう思いがあって、授乳服や、子連れ出勤など様々な手法で「女性のライフスタイル」や「社会」に対してデザインをされているんですね。


アクティブだった方ほど、今までの社会的な繋がりが無くなって家に閉じこもってしまい、鬱々としてしまうこともあるんです。でも、モーハウスの授乳服を着ることで、外に出かけて元気になっていく人もたくさんいらっしゃいます。子育ての制限から解放されることや、子連れ出勤など、個人の行動に「変革」を起こすような体験を提供できればと思います。



本質に近いデザインで、「生き方」を変える


- 光畑さんにとって、デザインはどういうものでしょうか?


単純にもののデザインではなく、もっと広い意味だと思っています。どう言ったらいいのか難しいですが、「本質は何か」について考えた時、そこに行き着くための「手段」な気がしていますね。ちょっとかっこよく見せるためのものじゃなくて、ちょっと深いもの。「本質に近づくためのツール」もデザインだし、「本質に近づくこと」もデザインだと思います。

だから、授乳服に対しても見た目のデザインについて褒められた時は、もちろん嬉しいのですが、「もっとちゃんと見てほしいな」と思ってしまいます。私たちの作る服は、機能性は高いのですが、服そのものはすごく普通のデザインが多いです。でも、実際に着てみた時に「生き方」や「考え方」に起きる変化はすごくかっこいいと思っているんですよ。例えば、現代アートみたいに、見た瞬間に今までの価値観が変わったり、衝撃を受けたりということが、モーハウスの服を着ること、体験することでも与えられると思っています。子どもを連れてどこにでも行けるという自由を手に入れることは、個人の中にきっと大きな変革を起こせると信じています。そういう服であるということに「かっこいい」と言われると嬉しいですね(笑) 。


- 最後に、光畑さん自身の未来像を教えてください。

自分で作った授乳服を着た時、私自身の生き方や価値観が変わったことは、本当に刺激的なことでした。ですから、そういった生き方を変えることができるような、新しい選択肢を世の中の人が知ることができるように、今後もいろいろな形で情報発信に関わっていきたいとは思っています。そのための手法は、「授乳服」や「子連れでの働き方」や「行政とのお仕事」であったりするんですが、実はこれらは全部外からきている話なんです。私のアイデアというより、外の方から「こんなことやってみたら?」って言われて発想が拡がっているので、そういった出会いがこれからもあると良いなと思います。 


- ありがとうございました。




モーハウスは、どんな場所でも自然に授乳ができる授乳服や、子どもを連れて一緒に働ける子連れ出勤など、子育て中の女性に対して新しい可能性を形にしている。それは、女性のライフスタイルをデザインすること、ひいては豊かな社会をデザインすることに繋がっていると言えるだろう。なぜなら、モーハウスが実現しようとしているのは、子育てにおいて何かを諦めたり、我慢したりするのではなく、女性たちがもっと欲張りに生きることができる世の中だからだ。


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