【インタビュー】和の本質を引き継ぎ、新しい伝統をつくる。

「新しい日本文化の創造」をコンセプトに、日本の伝統的な素材や技法を用いながらも、現代に寄り添ったデザインでものづくりを展開するSOU・SOU。地下足袋や和服、和菓子や家具など、多岐にわたるアイテムを製造・販売している。その独特のテキスタイルデザインは、様々な業界とコラボレーションし、拡がりを見せている。どのような想いが、今のSOU・SOUを創っているのか、代表の若林氏にお話を伺った。



伝統的なものへの「新しい使い方」を提案


- SOU・SOUで掲げられている「新しい日本文化の創造」というコンセプトに、思い至った経緯を教えてください。


単純に、伝統文化が廃れていくことが多くて、もったいないと思っていたんですよね。でも、売り方や見せ方を変えれば、良くなりそうなものはいっぱいあるなと。例えば、地下足袋もそう。昔ながらの地下足袋を昔ながらの売り方で売っても売れないですが、今までにないようなかわいらしいデザインでつくれば、新しい日本のファッションになるかもしれません。着物や、お茶の文化や、和菓子もそうです。 「これやったら着たい」「使いたいわ」とマーケットが拡がれば、廃れていくことは止まりますよね。そんな風に、日本の文化的なものも、自分たちなりにこうしたら楽しめるんじゃないかと考えることで、若い層に少しでも伝えたいなと。伝統的な使い方やルールは一旦置いておいても、新しい日本文化の創造に繋がるんじゃないかと思いました。


- 「伝統的な使い方やルールを置いておく」とは? 


どんな形でも技術が残れば良いと思っているんですよ。廃れるぐらいなら使い方を変えてやれば、良いものは残るんじゃないかなと。そのためには、「新しい使い方」が必要だと思っています。 本来の使い方を考えれば、軍パンやアウトドアブランドを街中で着ると「なんで?」となりますが、ファッションとして取り入れられたらありですよね。千利休が釣った魚を入れる魚籠(びく)を花入れに見立てたという話もありますが、使い方って自由じゃないですか。

「新しい使い方 」が、ほんまにおもしろくて100年続いたら伝統だし、あかんかったらあかんかったで、別の使い方を考えるなりして生き延びればいい。そういう「新しい使い方」を考えるクリエイターが、いっぱい居たらいいですよね。日本の伝統的なこと、文化的なこと、技術とか、ほんまはもっともっと発展したらええと思うんですけど。今はあまりそういう風にならず衰退していると思うので、そういうところに僕らはチャレンジできたらいいと思っています。



本質を見抜き、良いところを活かす


-ブランド全体でデザインを意識されていることはありますか?


「新しい日本文化の創造」と掲げているので、「日本のデザイン」と言えるような和の本質から、かけ離れていないものにしています。花の図案であれば、日本の花を描くとか。色合いは江戸時代とは違うけど、表現の仕方は今っぽいとか。昔の絵師が描かんようなかわいいものを描く。仮に、図案集が100年後に出たとしましょうか。江戸、明治、大正、昭和、平成と来た時に、平成の図案の中に、SOU・SOUの図案があったらいいなというイメージで、図案を出しています。


デザインには全般そういう想いがあるので、服だったら「着物が進化したらどうなるか」みたいな感じでつくっています。1000年も形が変わらない着物は本当は不自然で、世の中に自転車や自動車が出てきたら、自転車に乗れる着物や、着物で乗れる自転車が生まれないと、衰退しますよね。「草履や下駄で車を運転したらあかん」と言われたら、「日本の伝統衣装で車を運転するのは法律違反になるから、もう着るの無理やん」となる。でも地下足袋を履いてたらセーフじゃないですか(笑) 。

- 着物に地下足袋を履くことも、「新しい使い方」ですね。

そうなんです。着物に地下足袋を履いている人って実際見ないですよね。それは、地下足袋が大正以降に生まれた労働履きだからなんです。歴史や伝統的な使い方を考えると、地下足袋と呉服は交じわることはないんですよね。SOU・SOUの人は履いていますけど(笑)。そんな「新しい使い方」も僕は全然ありだと思うんですよ。


僕は、今SOU・SOUがつくっている、和をベースとして、日本でつくって、形も日本と言えるようなファッションのジャンルが盛り上がって、日本の中で普通に着られるようになったら、初めてパリコレとも対等に戦える「日本オリジナルのファッション」が生まれると思っています。SOU・SOUのブランドでは、そういう日本の文化的なことだと思える枠で、デザインを広くやっているつもりです。

- SOU・SOUが展開しているアイテムは、ファッションだけでなく、家具や文具や様々なコラボ商品など多岐に渡りますが、デザインに何かこだわりはありますか? 


屁理屈かもしれませんけど、こだわらないことかなと思っています(笑)。無茶はさせへん。僕なりに、今の空気をいれるだけ。影響を受けてきた遊びとか音楽とかカルチャーみたいなものが、今の好き嫌いに反映されていると思うんですよ。そこを無理に変えないというか。デザインにしても、使い方にしても、今、自分が思う「かわいい」とか「いいな」という感覚を元に変えることが出来れば、いろんな業界のものを前年比110%に引き上げることはできると思っています。


-なるほど。変えるポイントはどのように考えられているんですか? 


偏見なしで見て、良いところ、もっと良くなりそうなところをちゃんと探すことが大事ですね。例えば、今までつくった中で言うと、月桂冠とコラボレーションした「うたかた」。昔は「ジパング」っていう名前のお酒だったんですが、「スパークリングの日本酒をもっと若い層に売っていきたい」とお話をいただきました。


まず、日本酒ならではの茶色い瓶からは脱却しなあかんなと。かわいい柄をプリントして、飲み終わったら一輪挿しにできるような、ちょっとシャンパンを意識するような洋風なボトルのデザインにしようと思ったんですよね。日本酒の持つイメージとはあえて対局なものにしましたが、実は中身は全く一緒なんですよ。もとの品質が良ければ、味を変えなくても衣装を変えるだけで良くなるものもあります。だから、プロダクトを純粋な目線で見て、良いところはきちんと残すように考えました。



SOU・SOUを好きでいてくれる、眼の前の顧客を大事にしたい


-SOU・SOUの未来に対してどんなことを想像されますか? 


あんまり考えていないですね。今良いと思うことをやる以外ないんじゃないかなと、ずっとそう思っています。「今うちに来ているお客さんに楽しんでもらう」ということだけに集中していれば、壊れることはないというか。お客さんについてきた友達が好きになってくれたり、ちょっとずつちょっとずつ拡がるというか。それならスタッフもイメージつきますしね。


-「今うちに来ているお客さんに楽しんでもらう」とは、どんなイメージでしょうか?

わかりやすくいうと、ディズニーランドみたいなのが良いかなと思っています。ディズニーを好きな人が働いていて、お客さんをもてなしていて。駅を降りてすぐに見かける掃除しているおっちゃんですら、なんかええ人に見えるし、踊りだしそうな雰囲気があるじゃないですか。ディズニーファンは、行ってから帰るまで、終始うきうきしてられますよね。

だから、SOU・SOUが好きな人をスタッフとして集めれば、スタッフも働くことが楽しいし、お客さんの楽しさにも繋がる。SOU・SOU全体が繁栄すると思うんですよ。本当にその店の商品がいいと思っている人が働いていて、お客さんが「買っても買わへんでも楽しいな」って思える場所に僕はしたいですし、これは今のファッション業界に欠けていることだとも思います。できないなら、会社を潰して自分1人でやってもいいです。

もともと流行と関係ないものをつくっているんで、お客さんも流行とか関係なくSOU・SOUを好きな方が多いです。今はありがたいことにネットがあるので、お店に来れなくても繋がりが消えることはないですし、そういう方たちと長くお付き合いすることができます。なので、これからも「SOU・SOU好きやな」って思ってくれるお客さんたちを大事に、手厚くサービスしていきたいですね。


-では、若林さんの自身の未来に対してはどうお考えですか? 

僕もなんにも考えてないんですよ(笑)。何をやっても生きていけると思っています。どこにでも問題点はあるから、その問題点を解決したら売上あがるし。SOU・SOUでなくても、日本のクリエイターがやるべきことのひとつをやってるだけですから。未来に対して何も悲観してないですね。

ただ、いろんな人から「ちょっと声をかけてみようかな」と思ってもらえることがすごく大事だと思います。会社の中でも同じですが、相談される人って可能性は無限大ですよね。上司も、取引先も、部下も、声かけると、すごい情報量になります。SOU・SOUとコラボレーションしている企業もバラエティにとんでると思いますが、僕らはあまり閉鎖的な会社だと思われたくないなと思ってるんです。

人生にリハーサルはないじゃないですか、今日は今日しかないし。何かを始める時に勉強してからってなるとやれることは限られるけど、そうやって相談されたら、お金も貰いながら、勉強もしながら、ものがつくれる。月桂冠の瓶の話をしましたが、僕、瓶のデザインなんてそれまでやったことなかったですし、そういう機会をいただいたことはめちゃくちゃありがたいことだなと。だから、声をかけてもらえるような余白というか、隙がある方が会社も人間もいいんじゃないかなって思います。


- ありがとうございました。





若者で賑わう京都の繁華街、新京極通から少し路地に入るとSOU・SOUの店が立ち並ぶ。今回取材でお伺いした場所もその中のひとつだ。SOU・SOUの着物を身に着けたスタッフが通ることも頻繁にあり「太秦映画村の平成版みたいでしょ」と若林氏は言う。その独特な空間は、訪れたSOU・SOUのファンをきっとわくわくさせてくれるだろう。

デザインとは、どのような形であるべきか構想し、それを実際に具現化することだ。伝統的なものの本質を見極め、新しい使い方や見せ方を見立てているSOU・SOUは、経営にデザインの力を活用していると言えるだろう。若林氏がデザインする新しい日本文化の形が今後も楽しみだ。


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