【インタビュー】自分らしい暮らしをつくることが、当たり前になる世界にしたい。

日本初の体験型のDIYショップ「DIY FACTORY」をオープンさせ、注目を浴びた大都(だいと)。その後もDIYという切り口で、オンラインショップ・出張サービス・WEBメディアなど、様々なサービスを展開。日本でのDIY文化の定着を目指し、新たなサービスを次々と形にしている代表取締役の山田氏に、経営とデザインについてお話を伺った。 



DIYが文化になれば、毎日の時間はもっと豊かになる


 まず、「DIY FACTORY」について、教えていただけますか?


「DIY FACTORY」は、株式会社大都のマスターブランドです。僕たちの中では「DIYという文化を創造する事業」とも言っていて、その中で実店舗やオンラインショップなど様々なサービスを展開させています。

DIYという文化は、まだ今の日本には根付いていませんよね。でも、DIYを知ってもらうことで、もっと人々の暮らしを豊かにできると思っています。そもそも「DIY」は、日本では「日曜大工」と訳されたりもしますが、本当は「Do It Yourself」の意味なんですよ。僕たちは、DIYの意味を「日曜大工」ではなく「自分たちらしい暮らしを、自分たちでつくる」ということに変えたい。家の壁紙を貼るとか、机をつくるとか、自分たちでつくることが当たり前になることを目指しています。


- なるほど。貴社の「らしさがあふれる、世界を。」というビジョンにも関連していそうです。このビジョンは最近新たに掲げられたと拝見したのですが、どのような経緯があったのでしょうか?


はい。「らしさがあふれる、世界を。」の前のビジョンでは「つくる楽しさを未来へつなげたい」と掲げていたんですが、今年6月の設立記念日を機に新しいものに変えました。というのも、前のビジョンはライフスタイルやものづくりに寄っていたので、僕たちの事業が多角化してきたこともあり、補えなくなってしまったんです。超えちゃったというか。もっと広い範囲でやりたいのに、ビジョンと事業内容にギャップができてしまっていたんですね。設立記念日はビジョンミーティングという名前で、1日かけてビジョンについて社員と話し合いました。


- そうした経緯で生まれたビジョンなのですね。新ビジョンの「らしさがあふれる、世界を。」に込められた想いについて詳しく教えていただけますか? 


暮らしの中に「衣食住」ってあるじゃないですか。着るものも食べるものも今の時代自由だと思っているんですが、住まいだけが不自由なんです。賃貸は、なぜか触っちゃいけない。画鋲を打つのも躊躇する、白い壁紙に囲まれた部屋に住んでいるじゃないですか。海外の人から言わせたら、それは「病室」です(笑)。でも、日本人はそこに疑問すら抱かないんですよ。

自分の居心地のいい空間をつくっていくような「らしい暮らし」をすれば、友達を招いたり、家に帰って家族と過ごすことが、もっと楽しくなるかもしれません。オフィスも同じです。自分たちの好きなデスクなどを並べるだけでも、仕事することが贅沢な時間になるじゃないですか。「らしさ」ってそれぞれ違うから「これがいい」って絶対的なものはないけれど、「それぞれらしさ」を大切にしてほしい。それが、僕たちの目指すところです。 



デザインが魅力的であれば、拡がりも加速する


- 経営にデザインを取り入れるという考え方に対してどう思われますか? 


僕たちはよく「想いとデザインとテクノロジー」と言っていて。要は「想い」がないとダメだと思っている。「何がやりたい」「どういう未来をつくりたい」とか、思いがあってこそビジネスって始めるべき。というか、想いがなかったら、やる資格がないのかなと。

デザインは、コモディティ化していくんですよね。例えば、さきほど話した店舗でも、日本初のDIY専門店ということで、メディアからの取材を受けたり、日本全国からホームセンターの方々も視察に来ました。そこから、あっというまに全国にそっくりなお店が増えたんです。100箇所くらいはできましたね(笑)。僕たちは、DIYをやってみたいと思う人がひとりでも増えるなら、どんどんやってください、とは思っていましたが。

モノマネは簡単にできるから、より細部に対してこだわっていく必要があると思っています。例えば、名刺ひとつでもそうですし、商品のデザインもそう、その人が来ている服ですら、会社としてはデザインだしブランディングだと思っています。この先、そういう細かいところでしか差別化できなくなってきそうだとも思います。 


- 実際に行っているデザインに関する取り組みがあれば、教えてください。


そうですね。商品のデザインは基本的には自分たちで考えていますが、ユーザーさんと一緒につくることもあるんです。以前、植物用の栄養剤のパッケージデザインをユーザーさんにつくってもらったら、10時間で1000本くらい売れてびっくりしました。そのユーザーさんは、まいちゃんって名前なんですが、彼女が投稿している絵がすごくよかったからお願いしたんです。そしたら、「まいちゃんが描いたんだ」とユーザー同士で拡がっていって。お店では絶対起こらないことが起きるのがネットだなと面白さを感じました。

あとは、名刺・フライヤー・ショップバックなど、外に出すものはすべてデザインだと思っています。僕たちの会社のコアバリューは「CHALLENGE」「ENJOY」「LEARNING」「TRUST AND RESPECT」「COOL」と5つあるんですが、コアバリューを書いたフライヤーを、「DIY FACTORY」の紹介としてユーザーさんに配っています。お客さんとの関係性が、どうすれば近くなるのかいつも考えていて、これもその一貫です。ものの売り買いだけでは、本当の意味での関係性はなかなか築けないのかなと思っています。 


- コアバリューの「COOL」には「かっこ悪いことも、かっこいいことも、かっこよくやります」とありますね。デザインにも直結していそうです。 


ダサいことは皆やりたくないし、イケてることじゃないと拡まらないじゃないですか。集客するにしたって、イベントにお客さんを呼ぶにしたって、WEBサイトがダサかったら、イベント自体がダサく見えますよね。

先日、二子玉川で子供向けの「YOU & DIY FACTORY」というイベントをしたんですが、看板のデザインにまでこだわったんですね。そうしたら、看板の前で写真を撮ってInstagramにアップしてくれた人たちが多かったんですよ。店舗のデザインだってそう。ターゲットであった若い女性が喜ぶワクワクするようなお店をつくった結果、取材が来たのかなと。そういうところでも、デザインの力は大きいと思います。「経営全てにおいて、デザインをいれることは大事」と、社内でもよく言っています。 



未来の形も、それぞれの「らしさ」を大切に


- 未来の「DIY FACTORY」の理想を教えてください。


市場の創造をしたい、と思っていますね。誰かの売上を奪うのは簡単です。別の店への発注がうちに変わっても、市場自体は増えていないですよね。そうではなくて、DIYを今までやったことがない人を取り込むとか、今はない市場を創造したいと思います。 あとは、ビジョンである「らしさがあふれる、世界を。」にも繋がりますが、すごく部屋がかわいくなって友達を呼びたくなったとか、早く家に帰りたくなったとか、家にいる時に豊かな時間を過ごすような文化をつくりたいです。会社としての規模を大きくしたいとは思っていなくて、そういう文化が拡がっていくことが一番の理想です。 


- 「文化の拡がり」とても大きな理想ですね。では、山田さん自身の未来についてはどうお考えですか?


僕自身は、やりたいことをやっているし、企業と一体だから、自分と分けて考えられないですね。今が楽しいから楽しいことを続けたいっていうだけです。今年で49歳なので、会社にいるのもあと10年ぐらいなんだろうけど、同じような想いを持っている次の人にバトンを渡せたらいいですね。でも、自分のことよりも、社員が70名くらいいるんですが、その人たちがそれぞれ幸せになるといいなと思います。うちでは「ハッピートライアングル」と言っているんですが、お客さん・取引先・社員の三者それぞれが幸せになるようなビジネスをつくっていきたいですね。 


- ありがとうございました。 





テクノロジーの進歩により日々の生活は便利になっていく一方で、「つくる」という体験は希少なものになってきている。インタビューの最中、二子玉川で行ったイベント「YOU & DIY FACTORY」の動画を見せていただいたのだが、ものづくりをする子どもたちの姿が本当に楽しそうで、取材者の胸にも込み上げるものがあった。人それぞれの「らしさ」を大切にするというビジョンが、あらゆるサービスに真っ直ぐに反映されている。それこそが、経営全てにデザインを取り入れている大都の「らしさ」であり、素晴らしさなのだと感じた。


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